実のところ、キムの写真も、そうした罠にはまってしまう可能性が大きかった。写真、いや、すべてのアートは、本質的に自己満足から始まるべきだが、そこに時代性や社会的普遍性がなければ、一時的に注目されたとしても、すぐに飽きられ忘れ去られてしまう。それでは、上手い写真の向こうにある凄い写真にはまずなれないのである。テクニックなど二の次なのだ。

そうした懸念は、結局、取り越し苦労だったかものしれない。彼は自分のインスタグラムから、それまで自分の人気を生み出してきた典型的なストリートフォトグラフィーをすべて削除して、その代わりに「PROJECT. KIDS」という形でギャラリーをリセットしたのである。

被写体はすべて彼の家族である。「ハイ、チーズ!」的な家族写真ではなく、リアルさを追求するストリートフォトグラフィーの特性を生かした家族写真だ。

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加えて、キムには他の者にはまず存在しない強みがある。在日韓国人であることだ。常に周りと違うことを意識してきたため、人とのコミュニケーションでは余計にありのままの自分を表せなかったというが、そうした葛藤は写真ではかえってプラスになる。同じような感情を持つ者に通じる普遍性があるからだ。

それは、自身の家族をモチーフにした作品に絡みつき、より純粋な自己表現となるのみならず、ある種、社会のメタファーにまで発展する可能性がある。今後、キムはさらに大きな成長を遂げるかもしれない。

今回ご紹介したInstagramフォトグラファー:
Chulsu Kim @chulsukim

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