<2016年世界報道写真コンテスト受賞者のマリオ・クルーズは、論理を先行させる写真家ではないが、論理的な労力を惜しまない>
写真は――とりわけフォトドキュメンタリーやフォトジャーナリズムは――しばしば撮影以上に、事前の準備とリサーチ、被写体となる人物とのコミュニケーションに重要で膨大な労力と時間を要することがある。今回紹介するマリオ・クルーズは、それを改めて教えてくれる写真家だ。
アサイメント(依頼された撮影)とパーソナルワークを見事に切り離し、後者の長期プロジェクトの、たとえば2016年のワールド・プレス・フォト(世界報道写真コンテスト)のコンテンポラリー部門ストーリーで1位に入賞した"Talibes, Modern-day Slaves"をはじめとする作品で、一躍名を馳せた。父親も写真家であったため、物心ついた時からカメラを手にしていたという30歳のボルトガル人である。
【参考記事】世界報道写真入賞作「ささやくクジラたち」を撮った人類学者
作品が完成するまでの過程は、緻密に計算されている。リサーチ段階で可能な限りあらゆる情報を網羅し、また被写体となる人物たちときめ細かに信頼形成を図っていく。その期間は半年から1年ほどかかるが、その間シャッターを切ることはない。それが彼が掴んだ極意だ。
いざ撮影を開始すれば、撮影までに蓄積したすべての意義ある物語や情報を作品に注ぎ込んでいく。それは徹底的な撮影前の準備があるからできる、とクルーズは言う。Email でのインタビューだったが、彼のそうした言い回しや行間のニュアンスは、どこか学者と話しているような気分にさせてくれた。