ロシアのジャーナリスト兼写真家であるディミィトリ・マルコフは、住んでいる西ロシアのプスコフで、ハンディキャップの孤児や、年配者たち、あるいは彼らの孤独な環境風景をメインのモチーフにしている。ほんの数年前まではプスコフにある孤児院で、ボランテイアとして、労働者として、子供たちの個人教師として、あるいは孤児院の写真家として働いていた。

 テクニック的には平凡な写真家にすぎないかもしれない。だか、彼には天才のみが持つだろう何かがある。人の心を打ち、生の声で真理を呼び起こす何かだ。それが彼の写真を見る者を自然に、また一瞬にして独自の世界に引きずり込む。そしてその瞬間、写真ということなど忘れてしまうのだ。

 実際、彼の写真に初めて触れ、数枚ほど探求していったとき、そうした気分を味わった。押し潰されそうなほど重く、暗い世界に入り込むが、同時になぜか温かく、心地良い感覚の中を漂っていた。まるで最高の音楽に出合い、サウンドそのものを超えて別世界に入り込んでしまったような感覚だ。が、マルコフのそれはあくまでも現実とシンクロした世界。プスコフだけでなく、ロシアの多くの声なき人々の苦悩を代表しているのである。

 そうしたマルコフの類稀な才能は、彼の子供時代の経験が生み出したのかもしれない。彼が育ったのは、モスクワ郊外の労働者の街で、工場労働者の家庭だった。ただ、住んでいた地区の仕事の大半は、その地区で唯一の工場に依存していた。結局その工場が不況により閉鎖され、大量の失業者が生み出された。大人たちは酒浸りになり、子供たちはほったらかしにされ、街をさまよっていた。ドラッグや犯罪がはびこる街を。