治療がうまく行かず、放心状態になったこともあった。美しさを仕事として提供してきた自分なのに、自分自身は抗癌剤治療で顔がむくみ全身の毛が抜けた。「エイリアンのような」醜い容姿になっていたと言う。

 いろんなことを考えた。このままだと恋愛ができないのではないか。子供が持てないかもしれない。頭の中が不安でいっぱいになった。

 そしてときおり押し寄せる死の恐怖。死の何が怖いのか、紙に箇条書きすることで恐怖に打ち勝とうとした。

「女性の美しさ」についても考え抜いた。これまでの仕事は華やかではあったが、どこかに自分自身の薄っぺらさを感じていたのも事実。本当の「美しさ」って何だろう。自問自答が続いた。

乳癌患者のショー

 そんなとき主治医から、乳癌患者だけが登壇するファッションショーを開催してはどうかと持ちかけられた。自分の選んだファッションを、癌患者たちが本当に着たいを思ってくれるのだろうか。分からなかった。

 でも当日は、治療中の患者でさえ勇気を振り絞ってモデルとして登壇してくれた。ランウェイでは癌患者の女性たちが、みんなまぶしく輝いて見えた。「美しさって外観だけじゃない。女性の本当の美しさってこういうことなんだなって思いました。限りある人生、今この瞬間を、自分らしくまっとうする姿なのかも知れないって思ったんです」。

 今は一応、治療はすべて終わった。再発しないか経過観察中だ。仕事を再開することにしたが、前の仕事をもう一度したいとは思わなくなっていた。

「病気って、人生の問題点を浮き彫りにしてくれるんだって気付きました」。

 本当に自分がしたいことは何なのか。自分の欲しいものは何なのか。

 病気はそれを教えてくれた。

 病気になってよかった?とちょっと意地悪な質問をすると「いえ、苦しいことのほうが多いので病気になってよかったとは決して思えないけど」と言ってから黙った。そしてしばらくしてきっぱりとした口調で「でも価値ある体験だと思います」と語ってくれた。

「癌患者」の型にははまらない