依頼時の大前提:わたしのエゴより相手への配慮

三手詰めの前の、大前提がある。仕事を頼む相手は、つねに、世界一忙しい人だと思え。世界一忙しい人に出す依頼状であるからして、手紙でもメールでも、冒頭に時候のあいさつはいらない。意外に知らないライターが多い。

逆に、最初の依頼メールから省いてはならない情報もある。①自分はだれにメールアドレスを聞いて連絡しているのか②取材、面談を希望するおおまかな日程③謝礼、ギャラが発生するのか、発生するならいくらか。

日程とギャラについては、「あるいは失礼とは思いますが」と前置きして、しかし最初から書いておく。取材相手に問わせることは、失礼だ。最初からカネの話をするのは、無粋でもなんでもなく、必須事項、むしろ礼儀だ。

わたしは三十年以上、ライター、編集者として仕事をしてきて、三手詰めのメールで会ってくれなかった人は、ほとんどない。中央政界の疑獄事件で逃げ回っている代議士や、贈賄側の理事にも、手紙を書いて会ったことがある。

しかし、三手詰めのメールを書いても、それでも受けてくれない人は、いる。その場合は深追いしない。事件取材なら話は別だが、平時の仕事依頼である場合、三手詰めメールで肯(がえ)んじてくれないには、それなりの理由があるものだ。

行きずりの関係はわびしい

最後に、人間を、甘く見るな、ということだ。一回限りの関係を求めて近寄ってくる人は、すぐに分かる。だから相手も、ギャラや時間を勘案し、会う、会わないを決める。

言うは易やすく、行うは難しの典型だが、一回限りの関係を求めて近づく人間になってはいけない。一生付き合うという覚悟をもって、仕事は申し込むべきなのだ。

わたしも、仕事が終わったあと、手紙やメールを書き続ける取材相手が、何人もいる。高齢で身寄りがなく、生活の面倒を見ている人さえいる。

勘違いしないでほしい。打算でしているのではない。尊敬からしている。しかし、心からの尊敬も、かたちにしなければ、言葉にしなければ、伝わらない。

言葉にならない感情、言葉に落とせない思想は、存在しない。言葉にならないのではない。はなから感じていないし、考えてさえいないのだ。

この本の主張の、根幹であり、要諦(ようてい)であり、最初で最後だ。

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三行で撃つPOP
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近藤康太郎(こんどう・こうたろう)

作家/評論家/百姓/猟師。1963年、東京・渋谷生まれ。1987年、朝日新聞社入社。川崎支局、学芸部、AERA編集部、ニューヨーク支局を経て、九州へ。新聞紙面では、コラム「多事奏論」、地方での米作りや狩猟体験を通じて資本主義や現代社会までを考察する連載「アロハで猟師してみました」を担当する。

著書に『ワーク・イズ・ライフ 宇宙一チャラい仕事論』『三行で撃つ〈善く、生きる〉ための文章塾』『百冊で耕す〈自由に、なる〉ための読書術』(CCCメディアハウス)、『アロハで田植え、はじめました』、『アロハで猟師、はじめました』(河出書房新社)、『朝日新聞記者が書けなかったアメリカの大汚点』、『朝日新聞記者が書いたアメリカ人「アホ・マヌケ」論』、『アメリカが知らないアメリカ 世界帝国を動かす深奥部の力』(講談社)、『リアルロック 日本語ROCK小事典』(三一書房)、『成長のない社会で、わたしたちはいかに生きていくべきなのか』(水野和夫氏との共著、徳間書店)他がある。

近藤康太郎『三行で撃つ』

『三行で撃つ 〈善く、生きる〉ための文章塾』

 近藤康太郎[著]

 CCCメディアハウス[刊]

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