過度の円高はデフレ傾向をもたらし、雇用に悪影響を及ぼす。それだけでなく人手不足をてこにした設備投資、技術進歩を妨げるというのが私の仮説である。高圧経済はその時点での雇用を生むだけでなく、長期的な経済の成長につながるというのが日本経済からの教訓だと思う。

08年のリーマン・ショックは国際貨幣政策の相互連関を通じて円高をもたらした。解消する手段は金融緩和しかなかったが、金利がゼロになったので金融政策は無力だと、やはり日銀出身の白川方明総裁は金融緩和を怠った。

円高を防いだ黒田総裁の功績

それを救ったのが財務省出身の黒田東彦総裁の日銀である。第2次安倍晋三内閣の初めからコロナ禍が日本を襲うまでの約7年間(13年第1四半期から19年第2四半期まで)に、実にほぼ福岡県の人口に匹敵する500万人の新たな雇用を生んだ。「失われた20年」の後、これだけの雇用を創出した政治家はいない。

若い世代にとって雇用は死活問題である。安倍元首相の葬列の沿道に花をささげる若い人々が集まったのも全く不思議ではない。少子化など金融政策以外の要因に責任を押し付けた白川日銀の誤りは、アベノミクスの成功によって実証されたといえよう。

優秀な人材を多く抱える日銀にとり、自行から総裁が出るのが行員の士気のためには重要である。従って、一般論としてはある頻度で日銀出身者が総裁になることが望ましい。既に述べたように、日銀が短期的には円安防止の政策を採用する必要性が生ずるかもしれない。

しかし新総裁が日本経済の歴史を無視し、しかも少なくとも雇用の面では日本経済を復活させた黒田総裁の成果を帳消しにするような過去の引き締め政策に戻ることのないよう、心から祈りたい。

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