昨今はサブスクリプション各社の差異が小さくなっており、同質化していると言ってもいいだろう。

しかし見方を変えれば、テレビやYouTubeといった共通のライバルの存在と競合する中で、全体として映像配信サブスクリプション各社は、一種の共生圏を形成しつつあると解釈できる。それは複数の事業者が「配信された映像コンテンツを無制限に視聴できる」という、同一のメディア体験を提供する共生圏である。

この現象はあたかもテレビ放送において競合する局同士が、全体としてひとつの共生圏を形成している構図に似ている。

サービスに飽きても、コンテンツに飽きてほしくない

映像配信サブスクリプションでは、どのプラットフォーマーも独自企画のオリジナル作品を製作しているが、資金面の制約もあり、それだけでユーザーを満足させ続けることはすでに困難だ。

ひとつの事業者が提供するプラットフォームの中でコンテンツに飽きたユーザーは、新たなコンテンツを求めてそのサービスを解約し、別のプラットフォームに乗り換える。それは地上波テレビの視聴者が、ひとつの局の番組に飽きても、テレビを切るのではなく他局にチャネルを切り替えて視聴を続けるようなものだ。

鳥瞰的な視点から見れば、ユーザーが別のサブスクに乗り換える事は、映像配信サブスクリプションの共生圏内をぐるぐる回遊しているにすぎない。われわれはそのような状態を「カスタマー・サーキット」と呼んでいる。

カスタマーサーキットの図解
図版=Screenless Media Lab.

ユーザー目線で考えると、自分好みのコンテンツを見尽くした後もなお同じプラットフォームに留まっていると、見尽くしたコンテンツ、古いコンテンツばかりが残っているだけで、期待感が失われてしまう。それが映画であれば、「映画っておもしろくないな」と思えてしまう。

そうなると今度は、プラットフォームのみならず、共生圏全体のメディア体験が毀損されることになる。

「退会の勧め」は実は正しい長期戦略だった

「水はよどむと腐る」と言われるが、事業者目線で言うならば、停滞することで腐ってくるのはコンテンツではなく「ユーザー」である。

自社のプラットフォームに囲い込んでみすみす腐らせてしまうよりは、他社に乗り替えてもらい、新たなコンテンツに出会うことでコンテンツ体験を活性化させ、メディア体験への期待を復活させたほうがいい。それは共生圏の維持に寄与し、自らの生存戦略としても機能するはずだ。

あるいはネットフリックスもまたそうした関係性に気づいており、活性が低下したユーザーにあえて退会を促し、複数サービス間で回遊を始めることを促しているのではないか。その目的はこの「映像配信サブスクリプションの共生圏」と、そこにおけるユーザーのメディア体験への期待感を維持することである。

ユーザーが映像コンテンツへの期待を失わずこの共生圏内を回遊しているかぎり、一度ネットフリックスから他社のプラットフォームに移ったとしても、いずれまたネットフリックスに戻ってくることになるだろう。

そうであればネットフリックスが、自社が死蔵しているユーザーを自ら手放して退会を促すことも、一見すると奇異に思えて、実は長期戦略として正解と言えるのではないだろうか。

Screenless Media Lab.

音声メディアの可能性を探求し、その成果を広く社会に還元することを目的として2019年3月に設立。情報の伝達を単に「知らせる」こととは捉えず、情報の受け手が「自ら考え、行動する」契機になることが重要であると考え、データに基づく情報環境の分析と発信を行っている。所長は政治社会学者の堀内進之介。なお、連載「アフター・プラットフォーム」は、リサーチフェローの塚越健司、テクニカルフェローの吉岡直樹の2人を中心に執筆している。

※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
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