毎年のように繰り返されてきたノーベル賞受賞のお祭り騒ぎの陰には、論文不正の蔓延という闇がある。お祭り騒ぎを続けるためにも、不正論文を少なくするためにも、研究現場の困窮と疲弊の解決が不可欠だ。

もちろん課題は多過ぎて一朝一夕に解決はできないが、短期的には、まず研究費の配分方法を見直すことが急務だ。競争的資金の偏重はもともと、少ない原資を効率的に活用することを目的としていたが、成果は上がっていない。そればかりか研究者から時間を奪い、さらに短期的な成果が期待できる研究が採択される傾向が強いため、研究から長期的な視野も奪っている。このような状況では、将来のノーベル賞につながるような研究は不可能だ。競争的資金の予算を減らす代わりに、研究者が制約を受けずに自由に使うことができる研究費を増額する。その早急な政策変更が求められる。

長期的には制度疲労を起こしている大学制度そのものの見直しも必要だ。教育と研究を両輪とする大学制度は、ごく一部の裕福なエリートだけが進学できた時代に設計されたものだ。大学には学問が期待され、研究者は将来の学者を育てればよかったし、学生は研究者の背中を見て勝手に育った。しかし、今は違う。進学率が6割に迫り大衆化した今、大学には、学者ではなく、社会に出て労働力となる人材を育てる教育機関としての役割が期待されている。それを研究者に求めるのは酷だ。手取り足取りで学生を育て、かつ研究でも成果を上げることなど無理な話だ。

研究者の疲弊の原因は研究費だけでなく、得意とは言えない教育の負担が過重になっていることにもある。大学はとうの昔に研究機関と教育機関に分離する時期に来ている。

[執筆者]
岩本宣明(いわもと・のあ)
1961年生まれ。文筆家・ノンフィクションライター。主な著書に『科学者が消える――ノーベル賞が取れなくなる日本』(東洋経済新報社)、『新聞の作り方』(社会評論社。文芸春秋社菊池寛ドラマ賞受賞)、『新宿リトルバンコク』(旬報社)、『ひょっこりクック諸島』(NTT出版)、『がんとたたかう心の処方箋』(光進社)、『ホスピス――さよならのスマイル』(弦書房)など。他に共著書多数。

今年もノーベル賞シーズンが到来した。日本人の受賞が決まるとお祭り騒ぎとなるが、受賞者は満面の笑みの一方で日本の研究環境の貧困と疲弊を嘆き、将来日本人受賞者がいなくなると警鐘を鳴らす。それが、ここ数年繰り返されてきたお決まりの光景である。
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