外交問題を報じる上で血となり肉となった回顧録
著者はアメリカの外交官として初めて公式に北朝鮮の地を踏んだ人物。米政府内の数少ない朝鮮半島のスペシャリストとして90年代の米朝交渉の始まりから枠組み合意までにかかわり、後に合意内容の履行を監視する上で北朝鮮・寧辺の核施設に常駐した希有な経歴をもつ。
この本では、現場レベルの交渉の泥臭い現実が克明に描かれている。ニューヨークやジュネーブを舞台にアメリカと北朝鮮が丁丁発止の交渉を繰り広げる中、両国間の相互不信や些細なことで外交交渉が影響される様子――いわば協議の舞台裏――を、さまざまなエピソードを交えながらつづっている。
本書は単なる北朝鮮本ではない。北朝鮮政府の思考回路が垣間見えるだけでなく、外交関係者でなければなかなか知ることのできない外交の世界が生々しく描かれている。アメリカ政府内部で意思決定がどう行われ、人間関係がいかに外交問題を左右し、国益を守る上で長期戦の外交交渉が実際にどう行われるか──この本から得られたものは多く、外交問題を報じる上で血となり肉となっている。
私たちの生きる「時代」を伝える本誌別冊
そもそもジャーナリストという職業に関心を持ち始めたきっかけは、大学1年生のころ。日本の大学に入学するため1995年にアメリカから帰国し、入学当初は部活のアメリカンフットボールが中心の毎日だった。ニュースメディアに目を向けるきっかけとなったのがニューズウィーク日本版別冊『WORLDキーワード 1996』(TBSブリタニカ)だ。国際情勢の潮流や注目すべきキーパーソンを網羅しつつ、世界の躍動感と「時代」を伝えた一冊で、当時「いつかこういう仕事ができれば」と思った(そして大学での勉強にも励むようになった)。
あの別冊を手にとってから20年。世界情勢の混沌が深まる今こそ、こういう別冊を新たに作りたいと思う。

●この記事は「特別企画 Book Lover's Library」のために書かれました。Book Lover's Libraryは、amazon.co.jpとの特別企画です。
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