一方、南北アイルランドが統合されたら厳格なカトリック教会の支配下に置かれるというプロテスタント系住民の昔ながらの懸念は、南の社会の劇的な変化によって薄らいでいる。カトリックのアイルランドは2015年に同性婚を合法化、昨年には中絶も自由化し、今や北よりも寛容な社会になっている。「今のアイルランドは近代的な多元主義の民主国家だ」とトンジは言う。

北の世論は「EU残留」

人口動態の問題もある。かつての北アイルランドでは親英派のプロテスタントが大半を占めていたが、今は違う。親アイルランドのカトリック教徒の人口がプロテスタントと同じレベルに近づいている。

EU離脱の是非を問う2016年の国民投票では、北アイルランドの親英派の3分の2が離脱を支持する一方、親アイルランド派の約85%はEU残留に票を投じた。結果、北アイルランドに限れば「残留派」が多数を占めた。

それでも「イングランド人の票で離脱が決まった」と言うのは、シンクタンク「変わりゆくヨーロッパのイギリス」のニコラ・マキューエン。北アイルランドの人口はイギリス全体の3%にすぎないが、イングランドの人口はイギリス全体の84%。数では勝てない。

ブレグジットが決まった時点で、1998年の和平合意の理念は破棄されたに等しい。マキューエンは言う。「北アイルランドの詩人ジョン・ヒューイットの言葉を借りるなら、『私はアルスターの男でアイルランド人でイギリス人、そしてヨーロッパ人だ。どれか1つでも欠ければ私は否定される』のだ。ところがブレグジットは、私たちのこうしたアイデンティティーを突き崩す。おまえはアイルランド人でもヨーロッパ人でもあり得ないと宣告されるに等しい」

そして経済の問題がある。北アイルランド経済省の7月の報告によれば、イギリスの合意なきEU離脱は「直ちに極めて深刻な影響」をもたらす。人口180万人の北アイルランドで約4万人分の雇用が失われかねないという。

「あらゆる経済指標が既に下降している。どこまで下がるか分からない」と、ベルファストにあるネビン経済研究所のポール・マクフリンも言う。ちなみにブレグジットの国民投票以来、北アイルランドの公用通貨である英国ポンドはユーロに対して15%、米ドルに対して17%も下落している。

南北の統合を求める声

南側にも影響はある。アイルランドのサイモン・コベニー外相は7月、合意なき離脱なら5万ないし5万5000人分の雇用が犠牲になると述べた。GDPも大幅に落ち込む可能性があり、合意なき離脱は「あらゆる面で」経済に「深刻な影響」をもたらすという。

ブレグジットで揺らぐ連合王国の団結