パウエルによれば、イギリスの「退場」で欧州のさらなる統合という夢が突如、現実になるわけでもない。最古参の加盟国のオランダでさえ、イギリス流の市場主義を目標とし、中央集権体制の強化には懐疑的。北欧やバルト3国などの加盟国をまとめて、独仏に対抗しようとしている。

こうした事情にもかかわらず、EUは団結してイギリスとの困難な「離婚」に臨み、かえって力を増したように見える。そこに映し出されているのは、ヨーロッパという存在をめぐるイギリスと欧州大陸部の考えの違いだ。

「ヨーロッパとは単に『市場』を意味するのではないという基本概念で大陸部はほぼ一致している」と、パウエルは語る。「だがイギリスでは、そう考える者は皆無に等しい」

19世紀以降、イギリスの対欧州政策は(ナポレオン時代のフランスのような)大国に対抗して、小国と同盟を形成する路線を取った。しかし今の欧州にはEUという大きな存在しかない。国家の主権を取り戻すという大言壮語として始まった政策が完全な屈服で終わりかねないブレグジットの経緯に、将来の歴史家は学ぶべきだ。

イギリスは「無風状態の中でマストも舵も失ったヨットだ」と、カプチャンは言う。「漂っているだけで、どこへ進むべきかも分かっていない」

対するEUに、より確かな方向性と未来像があることはたぶん間違いない。

From Foreign Policy Magazine

<2019年4月2日号掲載>

※この記事は本誌「英国の悪夢」特集より。詳しくは本誌をご覧ください。

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