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[28日 ロイター] - トランプ米大統領(共和党)が反DEI(多様性・公平性・包括性)の攻勢を強める中、S&P総合500種株価指数の構成企業の取締役会での女性や人種的マイノリティーの登用が10年超ぶりの低水準に落ち込んだ。米企業は取締役会の多様性実現に向けて長年にわたって成果を積み重ねてきたが、後退に転じる恐れが出ている。
米コンサルティング会社スペンサー・スチュアートが28日に発表したデータによると、S&P総合500種企業の独立取締役指名に占める多様性人事は2021年と22年に72%とピークに達して以来、着実に低下している。トランプ氏が大統領に復帰後の昨年5月から今年4月30日までの1年間に指名された独立取締役364人のうち、女性と人種的マイノリティーは40%と、14年(39%)以来の低水準となった。
現在、S&P総合500種企業の取締役会で女性と人種的マイノリティーの割合は49.3%と、過去最高となった24年および25年のそれぞれ49.6%から低下した。
スペンサー・スチュアートの北米取締役会アドバイザリー部門の共同責任者、ジョージ・アンダーソン氏は、取締役会が変化する法的、規制的、政治的な圧力に対処していることを要因に挙げた。
アンダーソン氏によると、現職の最高経営責任者(CEO)および経験者を採用する動きも多様性後退の一因となっている。今年の新任取締役のうち現役のCEOおよび経験者が37%を占め、15年ぶりの高水準となった。企業側は複雑な状況を乗り切るのに適した人材と見なしている一方で、CEO人材は多様性に欠ける傾向があるとアンダーソン氏は説明した。
取締役指名の変化は、取締役の選任基準に多様性を公に挙げている企業数が減っていることと一致している。人事分析会社ピープルリターンがロイターに提供した今年のデータによると、S&P総合500種構成企業のうち、取締役会の決定で何らかの形のダイバーシティ基準を採用していることを開示している企業は約12%。これはバイデン前大統領(民主党)の在任中だった2024年の48%、トランプ氏が大統領に復帰した25年の23%から下落した。
ハイテク企業に対する社会問題のロビー活動をしばしば手がけるニア・インパクト・キャピタルのクリスティン・ハル最高投資責任者(CIO)は、多様性のある取締役の指名数減少は男性主導の企業経営への回帰を反映していると指摘。「私たちは大きな進歩を遂げていたのに、また男性中心の文化が戻ってしまった」と嘆いた。
対照的に、農村ライフスタイル小売りのトラクター・サプライや農機大手ディアなどに対してDEIの取り組みの撤回を迫ってきた保守派活動家のロビー・スターバック氏は歓迎して「彼らはこれまで全く間違ったあらゆることに力を入れ、それが利益にも表れていた」と主張した。
ホワイトハウスのアリソン・シュスター報道官は、トランプ氏が「分断を招く人種差別的な政策に終止符を打ち、実力主義と効率性を回復させる使命を持ち、圧倒的な支持を得て当選した」とコメントした。
<もはや「目覚めた」国ではない>
トランプ氏は昨年、DEIプログラムの廃止を迫る一連の大統領令に署名。その一環として政府の契約を受注する企業に「違法なDEI差別や優遇措置」をなくすよう奨励し、「わが国はもはや『目覚めた(woke=ウォーク)』国ではない」と宣言した。
トランプ政権は、これに従わない企業に対して多額の罰金を科すと脅している。
一部の従業員を差別するなどDEIの取り組みを違法とする大統領令に従わなかったと糾弾されたIBMは今年4月、1700万ドルを支払うことで司法省と和解した。IBMは和解合意の際にいかなる不正行為もなかったと訴えている。
一方、株主らはDEIを弱体化させようとする株主提案にほとんど関心を示していない。保守派は企業によるDEIの取り組みを標的として三つの株主提案を実施したが、ここ数カ月の年次株主総会で平均1.5%の支持しか集められなかった。
ロイターが12人超の採用担当者、投資家、従業員を取材したところ、企業は取締役の採用でかつてほど多様性を重視しなくなったことが示唆された。
このような変化は、俳優をはじめとする多数の女性が性被害を告発する「#MeToo」運動や、2020年に中西部ミネアポリスで黒人男性のジョージ・フロイドさんが白人警官に首を圧迫され、死亡した事件を巡る抗議活動を受けて多様性イニシアチブを推進していたジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)、ゴールドマン・サックス、アメリカン・エキスプレスなどで顕著に見られる。
ゴールドマン・サックスは、自社が株式上場を引き受けた企業に対し、多様性を代表する取締役を少なくとも2人擁することを求めていた。ところが、トランプ氏が多様性イニシアチブを標的とした大統領令に昨年署名すると、その数週間後に「法的な動向」を理由としてこの要件を撤廃した。
ゴールドマン・サックスの広報担当者は、同社は引き続き多様性が業績を向上させ、財務上の成功に不可欠だと確信しているとコメントした。J&Jとアメリカン・エキスプレスはコメントの要請に応じなかった。
<背景に資産運用会社の圧力緩和>
ピープルリターンのジョシュ・レイマー最高経営責任者(CEO)は、ブラックロック、バンガード、ステート・ストリートといった大手資産運用会社がDEIへの取り組みを後退させたことで、企業に取締役会の多様化を求める圧力が緩和されたと解説する。
レイマー氏は「これを推進していた大口投資家たちはいずれも、この件について言及することを完全にやめた。大型株企業の経営陣は、この問題について言及しなければならないというプレッシャーを以前よりはるかに感じなくなっている」と打ち明ける。
ブラックロック、バンガード、ステート・ストリートの3社は以前、自社が株式を保有する企業の取締役会に一定の多様性を確保するよう求めていた。ブラックロックは2021年終盤に取締役会の30%を多様性のある構成とするよう要求していた。バンガードは22年、性別と人種、民族の多様性を「最低限」確保するよう求めていた。
しかしながら両社は昨年、それらの文言を削除した。ステート・ストリートは25年2月、主要企業の取締役会で女性が少なくとも30%を占めるとの期待値を撤回した。
これら3社はコメントを差し控えた。
経営幹部のヘッドハンティング企業は、多様性が以前ほど重視されなくなったと指摘する。スペンサー・スチュアートのデータによると、S&P総合500種構成企業のCEOのうち女性および人種的マイノリティーの割合は約22%と、前年の23%から下落した。
経営幹部ヘッドハンティング企業クリスチャン・アンド・ティンバーズのジェフ・クリスチャンCEOは「今日では『最適な人材』という言葉がより頻繁に聞かれるようになった。有色人種であることの価値は、かつてほど重視されなくなっている」と話した。