そしてもちろん、乗り入れ時期を「2043年12月」とはっきり告知しているのは、「完成が2044年にもずれ込む」と報道されるのをとにかく避けたいという狙いが透けて見える。
「フェーズ2」のマンチェスター、リーズ方面の支線が削られた理由の1つは、フェーズ1でトンネルと高架化にあまりに多くの費用を費やしてしまったためだ。
北部を活性化するためのプロジェクトのはずが、南部の田園風景を壊して裕福な南部の人々を怒らせないために、資金が使い尽くされてしまった。
何かしらのプロジェクトで費用が超過したとき――例えばウェンブリー・スタジアムのような場合には――結局国民1人当たりにすれば10ポンド(約2100円)程度にすぎない、などと言ってなだめられることがある。今のイギリスではよくありがちだ。
HS2について言えば、この慰めは使えない。国民は、バーミンガムへの旅がちょっとだけ速くなるために、1人当たり1500ポンド(約32万円)を負担することになる(そこから先は在来線に入り、北へは普通列車で向かうことになる)。続きの在来線の追加運賃がいくらになるのかもまだ知らされていない。
サンクコストの誤謬どころではない
将来、頻繁に南北を移動しなければならない人にとっては役に立つかもしれない。だが一般的な人々、特にイングランド西部や南ウェールズに住む人は一度も使うことがないだろう(彼らが北部へ向かうには、ロンドンを経由しない低速の「クロスカントリー」列車があるからだ)。
現政権はこのHS2問題について、前政権を非難している。完成さえすれば世界最先端で素晴らしいものになる……などというお決まりの大言壮語で国民の目をそらそうとさえしていない。担当の運輸相は、この大失敗は「イギリス衰退の象徴」だと実際に口にした。
既に何十億ポンドもコストをかけたのだから追加であと数十億ポンドかかっても完成させなければもったいない、と考えてしまう「サンクコスト(埋没費用)の誤謬」という現象があるが、このHS2を続行する理論はもはやこのサンクコストの誤謬ですらないようだ。現段階では、全てをゼロにするのも、完成まで続けるのと同じくらいの費用がかかってしまう、ということなのだ。
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