戒厳令下での人権侵害が問題に

戦争と呼べるほどの激しい闘いが繰り広げられたミンダナオ島マラウィ ABS-CBN News YouTube
戒厳令延長の動議を上院のユアン・ミゲル・ズビリ与党議員会長と共同提出した下院のロランド・アンダナ・ジュニア与党議員会長は「当局者の説明を聴いて、ミンダナオには反政府勢力により引き続き脅威が存在すると信じる。そのため戒厳令再延長は必要がある」と述べ、再延長の必要性を訴えた。

また、地元紙の報道によると、ミンダナオ島サンボアガ市のセルソ・レブレガト市議は「2013年にサンボアガ市の一部が(イスラム教武装組織の)モロ民族解放戦線(MNLF)に占拠される事件が起きた。もしこの時戒厳令があればあのような事態は起きなかった」と戒厳令延長への支持を表明すると同時に「戒厳令でMNLFなどの組織の武装解除も進めてほしい」と期待を示している。

しかしその一方で、このようになし崩し的に戒厳令が再延長される現状に対して、野党や人権団体は「戒厳令下で人権侵害がさらに深刻になる恐れがある」と警告を発している。

事実、ミンダナオ島では野党と関係のあるグループの元議員ら18人が少数民族支援の活動をしていたところ、治安部隊に突然身柄を拘束されるなどの事件も報告されている。

戒厳令下では軍や警察は「逮捕令状なしで身柄を拘束できる」ことから、ミンダナオ島では治安上必要という理由だけで不当な逮捕、尋問などの人権侵害が続いているといわれている。

今回戒厳令が再延長されることになったミンダナオ島はフィリピン南部でMNLFなどの反政府武装組織の活動が活発な地域とされ、ドゥテルテ大統領は、マラウィ占拠事件に乗じてこうした他の武装組織の壊滅も視野に入れているとみられている。

なによりも、ドゥテルテ大統領自身が1998年から途中間があるものの6期も市長を務めたダバオがミンダナオ島にはある。このこともミンダナオの治安を優先し、国軍・警察に超法規的権限を付与することになる戒厳令にドゥテルテ大統領が積極的な理由のひとつといわれている。

otsuka-profile.jpg
[執筆者] 大塚智彦(ジャーナリスト) PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
ニューズウィーク日本版 台湾有事の新シナリオ
2026年4月21号(4月14日発売)は「台湾有事の新シナリオ」特集。

米・イラン戦争で変わる地域紛争の「大前提」/石油危機を恐れるべき理由

※バックナンバーが読み放題となる 定期購読はこちら
※画像をクリックするとアマゾンに飛びます