Yoruk Bahceli
[ロンドン 1日 ロイター] - 米国以外の社債市場で巨大IT企業(ビッグテック)が相次いで大型起債に踏み切っていることで、欧州や日本、スイスなど、これまで米国の陰に隠れがちだった市場の存在感が高まり、総額40兆ドル規模の社債市場の勢力図に変化が起きている。
グーグルの親会社アルファベットはすでにユーロ建て、英ポンド建て、スイスフラン建て、円建ての社債市場における最大級の発行体の1つとなっている。また、アマゾンは3月、8本立ての起債で145億ユーロ(約168億8000万ドル)を調達。LSEGによると、これはユーロ建て社債市場で過去最大規模の起債となった。
銀行関係者によると、今年に入ってこうした「ハイパースケーラー」と呼ばれる巨大テクノロジー企業が米国外で積極的に資金調達を行っている背景には、将来的な人工知能(AI)向けインフラ投資への備えがある。特にデータセンターを中心に、今後数兆ドル規模に達するとみられるAI関連投資資金を確保するため、資金調達手段の多様化を早い段階から進めているという。
外貨建てでの資金調達には世界各地に保有する資産に関連する為替リスクをヘッジできる利点もある。また、欧州などでは米ドル市場より低い金利で資金を借り入れられる場合もある。
アルファベットは各市場で記録を塗り替えた。円建て、カナダドル建て、スイスフラン建て、英ポンド建ての各起債はいずれも、それぞれの通貨建て市場で過去最大の発行額となった。
BNPパリバの投資適格債ファイナンス共同責任者ジュリオ・バラッタ氏は「これら企業の投資ペースを考えれば、12カ月後には一部企業が通貨を問わず世界最大級の起債企業になっているだろう」と予想した。
欧州では、アルファベットとアマゾンの起債が寄与し、非金融米企業によるユーロ建て社債発行額は年初来で600億ユーロ(約699億ドル)を超え、過去最高を更新した。
<非金融企業の起債急増>
モルガン・スタンレーは、ハイパースケーラーによる今年のユーロ建て社債発行額が約500億ユーロに達すると予測している。予想通りなら、ユーロ圏社債市場で米国はフランスを抜いて最大の発行国となる可能性がある。
JPモルガン・チェースの投資適格債ファイナンス共同責任者ジョン・セルビディア氏は「ユーロ市場を含め、多くの市場が発展し、以前よりはるかに大規模な資金調達が可能になった」と語った。
LSEGのデータによると、ハイパースケーラーの大型起債を背景に、スイスフラン建てや円建てなどの国際社債市場では非金融企業の発行額が急増している。
セルビディア氏は、ハイパースケーラー以外の米企業も、こうした市場で多額の資金調達が可能であることに注目している。「企業は以前より真剣に海外市場を検討するようになっている」という。
より広い視点では、企業は調達源を分散する取り組みの一環として、豪ドル建てや香港ドル建ての社債発行も増加している。
一方、投資家側でも、地政学的緊張や政策の不透明感を背景に、米ドル資産への集中を避ける動きが広がっている。
<AI投資への備え>
バンク・オブ・アメリカによると、ハイパースケーラーの資金調達に占める非ドル建て債の割合は今年30%に達し、前年から倍増した。JPモルガンのセルビディア氏によると、ビッグテックは海外市場で資金を調達することで、米国内市場での起債頻度を減らせる利点もある。場合によっては米ドル建て市場より低いコストで資金を調達でき、少なくとも同程度の条件で借り入れが可能だという。
大量発行は一般に社債価格の重しとなるため、アナリストらはハイパースケーラー債が米社債市場全体をやや下回るパフォーマンスとなる兆候も指摘している。そのため、米市場への依存度を下げることが市場への悪影響を抑える助けになる可能性もある。BNPパリバのバラッタ氏によると、アルファベットやアマゾンが調達した資金の多くをドルに戻さず、発行通貨のまま保有している。
投資家の側では、これまでハイテク企業の存在感が限られていた国際債券市場で、AI関連テーマへの投資機会を求める動きが強まっている。例えば運用大手キャンドリアムのニコラ・フォレ最高投資責任者(CIO)は、欧州債券市場でテクノロジー分野への投資比率を高めるためにハイパースケーラーのユーロ建て債を購入している。
5月31日時点でアルファベットは「ICE BoA非金融ユーロ社債指数」で第7位の発行体、英ポンド建て社債指数では第4位の発行体となった。さらに、スイスフラン建て社債指数や円建て社債指数でも上位10社に入っており、アマゾンもスイスフラン建て市場で第8位の発行体に浮上した。
今後、テクノロジー企業の起債が増加すれば、米国以外の社債市場はAIやテクノロジー業界の動向により大きく左右されるようになる。米運用大手フランクリン・テンプルトンの欧州債券運用責任者デービッド・ザーン氏は「もしAIに何らかの問題が生じれば、市場の変動性はさらに高まるだろう」と警鐘を鳴らした。