Saurabh Sharma Tora Agarwala
[ニューデリー 29日 ロイター] - 12年続くインドのモディ政権に対し、オンライン上で過去最大規模とみられる抗議の動きが広がっている。きっかけとなったのは、若者をやゆする発言への風刺的な反論だった。一方で、この動きは創始者への殺害予告や、与党政治家からの強い反発も招いている。
急速に注目を集めているのは、アビジート・ディプケ氏(30)と、同氏が立ち上げたオンライン上の風刺運動「ゴキブリ人民党(CJP)」だ。「怠け者、失業者、そして常に正しい人々」を代表する存在だと称している。
インドでは、総人口14億2000万人のうち30歳未満が半数以上を占めるとされる。CJPの急拡大を支えるのは、こうした若者たちの不満だ。
政治アナリストらは、CJPの爆発的な人気が、モディ首相のイメージを損ない始めているとみている。モディ氏率いる与党インド人民党(BJP)は最近、重要な州選挙で勝利を収めたばかりだが、イラン戦争の影響による燃料価格の上昇やガス不足も重なり、国民の不満は広がっている。
「国や経済に問題がなければ、2000万人もの若者がこのような運動に集まることはなかったはずだ」と、2011年の反汚職運動で中心的な役割を担った政治活動家、ヨゲンドラ・ヤダブ氏は述べた。
「インド政治の現状を映し出す重要な瞬間だ。圧倒的支配を誇示する主張の下に、潜在的ながらも広範な不安が存在している」
75歳のモディ首相は、政府の汚職に対する大規模な街頭デモを背景に14年に政権を握って以来、同国の政治を圧倒的に支配してきた。多くの専門家は、モディ氏が反対勢力に簡単に譲歩するとはみていない。
それでも今回の動きは、若年層の高い失業率や、学生数百万人の将来を左右しかねない試験問題の漏えい事件が相次いでいることを背景に広がっている。これは、モディ政権が築いてきた「安定」と「統制」のイメージにひびが入りつつあることを示している。
反汚職運動の創設メンバーの1人で、著名な弁護士のプラシャント・ブーシャン氏は「(今は)若者らにとっては好機だが、慎重に進む必要がある」と話す。「前進したいのなら組織を作り、オンライン上で訴えてきた問題を掲げ、街頭で抗議活動を行う必要があるだろう」。
専門家や支持者らはこの運動について、現実の場で存在感を示せなければ失速しかねないとみている。与党BJPは、ヒンドゥー教徒の多くの支持を集めながら、着実に野党を弱体化させてきた。
批判派は、BJPが捜査機関を使って野党幹部に圧力をかけていると主張する。政府は他方、当局には汚職に対処するための自由裁量が与えられていると反論した。
上級閣僚のキレン・リジジュ氏は、CJPの「ゴキブリ」を冠した党名が「世界最大の民主主義」をおとしめていると批判。さらに「宿敵」の隣国パキスタンや「反インド勢力」からSNSのフォロワーを集めようとしていると非難した。
<徹夜で投稿準備>
ディプケ氏は過去2年間、米国で暮らしている。ロイターの取材にはシカゴから電話で応じ、交流サイト(SNS)投稿の作成やメディア対応に追われ、眠れない夜が続いていると語った。
「インド政府は私を国家安全保障上の脅威と宣言し、私の評判を傷つけようとしている」とディプケ氏は言う。「だが私たちは、民主的に、憲法上の権利の範囲内で、やるべきことをやる」。
ディプケ氏によれば、自身のX(旧ツイッター)アカウントは政府によりブロックされ、CJPのインスタグラムアカウントは正体不明のハッカーに乗っ取られた。さらにメッセージアプリ「ワッツアップ」上では身体的危害を加えるとの脅迫も受けており、インドと米国両方にいる家族の安全確保に努めているという。出身地である西部マハラシュトラ州の警察からは、家族の安全を確保するとの説明を受けたとしている。
CJPのインスタグラムアカウントのフォロワー約2300万人のうち、約95%がインド国内にいることを示すデータをディプケ氏は示した。次いで多いのは、インド系住民が多く暮らす米国などの国だという。
フォロワーの3分の2以上は、1997ー2007年生まれの「Z世代」だという。ディプケ氏はボストン大学を卒業した広報戦略家で、かつてはインドの野党庶民党(AAP)でソーシャルメディアのインターンを務めた経験もある。
「私がこれを冗談として、風刺として始めたことは、皆、分かっている」とディプケ氏は言う。「ただ、インドのZ世代は、私に本当に何らかの行動をしてほしいと思っている。これを単なる『ミーム(ネット上のジョーク)』で終わらせたくないのだ」。
ディプケ氏はXアカウントの凍結措置を巡り、デリーの裁判所に異議を申し立てた。X社と、インドの内務省、電子・情報技術省、首相府はいずれもコメント要請に応じていない。
ニューデリーに拠点を置くインターネット・フリーダム財団の理事で弁護士のアパル・グプタ氏は「インドにおけるオンライン上の遮断増加は、異議や風刺が民主的な表現ではなく、行政上の脅威として扱われていることを示している」と指摘する。
ディプケ氏によると、支持者からは「ミームを超えた行動」を求める声が出ており、運動として信頼性を持たせる方法を協議している。ただ、政党化については未定だという。
<「全てのゴキブリが集まれば」>
「もし全てのゴキブリが集まったらどうなるだろうか」──。
騒動の発端は、ディプケ氏が5月16日にXへ投稿した一文だった。この投稿は瞬く間に拡散された。
ディプケ氏によると、この投稿はインド最高裁スーリヤ・カント長官による発言への反応だった。カント氏は、一部の失業中の若者をゴキブリになぞらえるような発言をしたとされる。
カント氏は後に、若者全体を批判する意図はなかったと説明。「偽の学位」を持つ人々を指し、そうした人々を「寄生虫」になぞらえたのだと述べた。
CJPはその後、綱領を掲げ、スマートフォンの上に乗ったゴキブリの画像をマスコットに採用した。国内のインフルエンサーやコンテンツクリエイターが次々とメッセージを拡散し、CJPは数日のうちにインスタグラムで巨大な支持を獲得。フォロワー数は、モディ氏のBJPが10年以上かけて得た930万人を大きく上回った。
政府統計によると、25年の15歳以上の失業率は3.1%だった。しかし15ー29歳に限ると9.9%に上り、都市部では13.6%と、農村部の8.3%を上回った。
ディプケ氏は、こうした不満を抱える若者たちがCJPのアカウントに集まっているとみている。
北部ラクナウのテック企業で初級職に就くシュリン・ディクシットさん(23)は「私は経営学修士号(MBA)を持っているが、今の仕事は学歴に見合っておらず、給料も低すぎる」と明かし、「このグループが抗議行動を呼びかけるなら、私は参加するつもりだ」と語る。
CJPの急速な台頭は、近隣のバングラデシュやネパールで死者も出したZ世代主導の政権打倒運動と比較されることもある。ただ、ディプケ氏はこうした比較には慎重だ。
CJPのフォロワーの7割は28歳未満で、特定の政党を支持しない非政治的な人々だとディプケ氏は言う。
「彼らは失業問題やインドでの生活水準の低さを巡り、政府に不満を抱いている」とした一方、「彼らは野党にも失望している。野党はこれまで政府を追及する上で、実質的な行動を何もしてこなかったからだ」と指摘した。
専門家からは、資金力を持つ既成政党に挑むのは容易ではないとの声も上がる。
発展途上社会研究センター(CSDS)のサンジャイ・クマール氏は「現実の場での活動、資金調達、ボランティアの確保、これらはいずれも人員や資金を必要とする大きな課題だ」と述べた。
さらに、街頭での抗議活動にはリスクも伴う。モディ政権下では過去、大規模デモに対して当局が厳しい取り締まりを行い、参加者が死亡した例もある。
それでも、多くの支援者は楽観的だ。
政府を批判的に取り上げるリール動画で知られるコンテンツクリエイターのマドリ・カコティ氏は、こう語った。
「(CJPが)近いうちに組織作りを巡る何らかの計画を示してくれることを願っている。Z世代は流行に飛びつくのも早いが、飽きるのも早い」。