Mariko Sakaguchi
[東京 14日 ロイター] - 円債市場で長期金利が2.6%まで上昇、29年ぶりの高水準を更新した。原油高を背景としたインフレ懸念から世界的に金利上昇圧力が強まる中、インフレ期待の上昇に伴って市場が予想する利上げ最終到達点(ターミナルレート)も一段と上昇。日銀がタカ的な姿勢を示していても、対応が後手に回る「ビハインド・ザ・カーブ」のリスクは払しょくされていない。財政政策への警戒感から、長期金利3%も視野に入るとの見方が出ている。
<ターミナルレート予想2%超>
中東情勢の先行き不透明感がくすぶる中、東京円債市場では13日、新発10年債利回り(長期金利)が一時2.600%と97年以来29年ぶりの高水準を付けた。市場では12日の10年債入札は順調な結果と受け止められていたが、流通(セカンダリー)市場で追随する買いが乏しく、全体的な地合いの好転につながっていない。
「改めて市場参加者の慎重姿勢がうかがわれ、ますます手控えられた面もあるのではないか」と三菱UFJモルガン・スタンレー証券のシニア債券ストラテジスト、鶴田啓介氏はみる。
上昇圧力を受けているのは長期金利だけではない。新発5年債利回りは一時1.945%、新発20年債利回りは一時3.495%といずれも過去最高水準を更新した。
WTI原油先物が再び1バレル=100ドルを超える水準に上昇しているほか、ドルも政府・日銀による為替介入後に再び157円後半まで上昇、いずれもインフレ圧力を意識させている。
LSEGのデータによると、期待インフレ率を示す指標の10年債ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)は13日に一時2.07%まで上昇。それに伴い、市場が予想するターミナルレートの指標となるオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)の2年先1カ月フォワード金利も2.0%を超えてきた。
<進む利上げ織り込み、後手リスク変わらず>
7日と12日に公表された3月日銀金融政策決定会合の議事要旨と4月日銀会合の主な意見は、いずれもタカ派的な姿勢と受け止められた。
東短リサーチと東短ICAPによるオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)気配中央値によると、6月の日銀金融政策決定会合での利上げ確率は13日時点で74%と、市場の利上げ織り込みが一段と進んでいる。
野村証券のエグゼクティブ金利ストラテジスト、岩下真理氏は、4月日銀会合の主な意見では物価の上振れを意識しており、利上げで対応するという方向性との印象を受けたと話す。一方、「政府の意見にもこだわりが感じられ、理解を得られるかが焦点」とし、昨年11月と今年2月に高市早苗首相と植田和男日銀総裁が会談しており、5月後半に同様の場が設けられるか注目している。
「利上げペース自体が早まる印象は受けない」とニッセイ基礎研究所の金融調査室長、福本勇樹氏は指摘する。ビハインド・ザ・カーブに陥るリスクは、金融政策が緩和的な状態から脱しない限りくすぶり続けるとみられ、「イールドカーブがフラットニング(平坦化)するタイミングが後ろ倒しになる」ことから、円債は買いづらい状況が続くとの見方を示す。
日銀が3月に再推計した名目ベースの中立金利のレンジは1.1―2.5%。原油高止まりや円安、物流の停滞が続けば、このレンジ上限は「3%程度まで上振れるリスクがある」(国内銀の運用担当)との見方もある。このため「長期金利が2%後半から3%近辺まで上昇しなければ買いにくい」(同)という。
<長期金利3%がメルクマール>
新発10年債利回りが2.6%を付けた後、投資家による買いに支えられ、金利上昇圧力はひとまず一服した。ただ「戻りは限定的という印象」(前出の国内証券債券セールス担当)との声がある。
インフレの落ち着きどころが見えない状況では「投資家の目線が定まらない時間が続きそうだ」(国内証券ストラテジスト)とし、インフレ期待がさらに上振れれば長期金利は2.7―2.8%まで上昇余地があるとの見方が優勢だ。
財政政策への警戒感も根強い。国民会議での議論で消費減税が現実味を帯び、物価高対策として補正予算案が浮上してくれば、タームプレミアム(投資家が長期債を保有するリスクに対して求める上乗せ利回り)が乗ることで一段と金利上昇圧力がかかり、「長期金利は3%が視野に入る」(三菱モルガンの鶴田氏)との声もある。
ニッセイ基礎研の福本氏は、財政規模がそこまで大きくならず、日銀がビハインド・ザ・カーブのリスクをコントロールしながら政策金利を段階的に引き上げ、インフレが落ち着いてくるようなら、イールドカーブにフラットニング圧力がかかるとみており「長期金利の3%が一つのメルクマールになってくるだろう」と指摘。3%を超えて野放図に金利は上昇していかないだろうとの見方を示す。