2週間前の10月17日(土)、ベルギー第2の都市アントワープでゲイのミスターコンテスト Mr Gay Belgium 2020 ファイナルが開催され、20歳の大学生 ヨーレン・ハウトゥヴェルス Joren Houtevels さんが今年のミスターゲイベルギーの栄冠に輝いた。
ロックダウンによりLGBTイベントも軒並み中止、延期
2013年に始まったこのコンテスト、例年ならば5月下旬から6月上旬に行われるファイナルだが、今年は新型コロナウイルスによるロックダウン(都市封鎖)によって開催延期となっていた。
ベルギーは他のヨーロッパ諸国同様感染第2波に襲われているが、このゲイコンテスト開催前後から新規感染者数が1万人に達したと思ったら、その数日後にはあっという間に2万人を突破、4月同様にまたもや人口当たりの感染者数でヨーロッパ最悪レベルとなってしまい(総人口1100万人)、10月30日、ドゥクロー新首相の声明で来週11月2日より6週間、12月13日までを期限とする2度目のロックダウンが決定した。
延期した日程が11月となっていたら、またもや再延期、もしくは最悪中止もあり得ただけに、幸運だったというしかない状況だ。今年は世界各地同様に5月のブリュッセル、8月のアントワープなど国内主要都市で開催予定のゲイプライド(レインボーパレード)も次々中止となり、主だったLGBT関連のイベントはこれまでほとんど開催されていない。その分今回のゲイコンテストも例年以上に注目された。また、4月13日以降200日以上海外からの持ち込み分を除いた地元起因の新規感染者を出していないというコロナウイルス封じ込めに成功した台湾で昨日10月31日、台湾全土から13万人が参加したという「台湾同志遊行(台湾LGBTプライド)」開催は、LGBT当事者だけでなく、広く世界の人々に強くアピールすることになるだろう。
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ミスターゲイはLGBT広報親善大使
さて、このゲイコンテスト、事前の書類審査などの予選でファイナリストが決まると、各種SNSでの一般投票が始まり、会場での水着審査、ダンス審査、スピーチ審査、観覧者による会場投票、そして審査員による質疑応答など総合評価し、勝者を決める。世界中に数多あるミスコンとほぼ同じシステムだ。
ファイナルの様子は、オランダ発祥で現在はベルギー他、ヨーロッパやイスラエルなど数ヶ国で放映権を持つ、ゲイやLGBTをターゲットにしたデジタルケーブルテレビの専門チャンネル OutTV で生放送され、YouTubeでもライブストリーミング配信された。
コンテストが目指すものは、単なる外見重視のイケメンコンテストでなく、LGBTに関する正しい理解を広報促進する活動を地道に行う親善大使のような人材を発掘すること。同性愛者に対する差別や嫌がらせと闘い、時には非当事者の何倍とも言われているLGBT当事者の自殺や自傷行為に至るのを思い留まらせるメッセージの発信者という役割をも期待されており、内面的な美しさの他に、自信がみなぎっているか、カリスマ性を持ち合わせているか、リーダーシップを発揮できるかなどの点が重視される。
プライドパレードでも人気のミスターゲイベルギー
筆者がミスターゲイベルギー(MGB)の存在を知るようになったのは、ブリュッセルで毎年5月に開催される ベルギープライド Belgian Pride のパレードで、MGBのフロート(山車)が練り歩いているのを見てからだが、かれこれ4,5年経つ。
ちなみに昨年2019年は沿道で夫と共に2人でパレード観覧していた筆者。至近距離でイケメンのファイナリスト達を愛でながら、コンテストを宣伝するフライヤーを手渡されるのだが、見目麗しい男達はパレードに詰め掛けているゲイ達からだけでなく、当然のことながら多くの異性愛者の女性達をも虜にしているのだった。


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「なぜ美容師じゃなく庭師?」
歴代のミスターゲイベルギー受賞者が語るには、世界でも最もLGBTフレンドリーとされる現在のベルギーに於いても、ゲイに対しての周囲の偏見や差別が蔓延っている状況を垣間見れる。2017年の優勝者 ジェイミー・ドゥブリーク Jaimie Deblieck さんがこのコンテストに出ようと思ったのは、当時彼が勉強する職業訓練の場での経験がきっかけだった。彼は庭師になろうと職業訓練校に通っていたのだが、そこで周囲に自身がゲイだとカミングアウトすると「なぜ美容師じゃなくて庭師になりたいんだ?」などとからかわれたりして(伝統的に当事者が従事するケースが多く、人々の目にも付きやすい美容師という職業は、ゲイには適任というステレオタイプな見方が今も根強い)、差別的な目線を向けられたりしたことだったと語っている。
Volg de Mr Gay Belgium verkiezing op de voet via www.mrgaybelgium.be of Facebook.com/mrgaybelgium #MGB2018 Fotograaf:...
Jaimie Deblieckさんの投稿 2018年1月28日日曜日
「フ◯ッキング・ゲイ!」と背後から襲撃
この2017年ミスターゲイベルギーに選ばれたジェイミーだが、翌年2018年2月、人口8万人ほどの彼の地元ルーセラールの町で夜遊びした後、早朝一人で家路に向かう途中、ゲイフォビア(嫌悪感を持つ人間)数人に "f*cking gay!" と罵倒された上、背後から襲われ身体を地面に押さえつけられるなどの暴行を受け、入院するという事件に巻き込まれ、当時全国ニュースにもなった。ケガの状況はそれほど深刻でなく、すぐにミスターゲイとしての活動も再開した様子を、インスタグラムで投稿していたジェイミーだが、ミスターに選出されてからも数々のバッシングも受けていたようだった。
背景には宗教的価値観の違いによる軋轢
実はベルギーに限らず、LGBTに対して寛容な西側ヨーロッパ諸国では同様の暴行事件が起きていて、その数はここ数年増加傾向にあるとのデータがある。EU加盟の西側主要国では、EUの基本指針にもある性的少数者への差別解消に向けた教育を進めているが、宗教上同性愛行為を禁止している一部のイスラム系市民などが強く反発、軋轢が生じている。今後も政府方針への不満が同性愛者らへの偏見に基づくヘイトクライム(憎悪犯罪)を増加させる恐れも指摘されている。
ミスターゲイベルギー 2020 としてのヨーレンの活動と将来の夢
ミスターゲイベルギー(MGB)2020に輝いた教育学を専攻するヨーレンの将来の夢は、小学校の先生になること。MGBに選ばれた直後から、ベルギー各地の小学校からジェンダー教育や性の多様性について生徒に教えて欲しいとのオファーが舞い込んでいる。
HLN.be || Vandaag was het zijn eerste schooldag terug als meester Joren. De kersverse Mr Gay Belgium werd met enorm veel...
Mr. Gay Belgiumさんの投稿 2020年10月20日火曜日
Facebook の Mr Gay Belgium アカウントでは、HLN.be の記事の引用をしながら「(中略)LGBTQ+の若者の10人に4人は学校は安全な場所でないと感じていて、自分たちコミュニティに属していない若者(非当事者、異性愛者)の10人に3人は自分たちのようなLGBTQ+当事者のことを嫌っています!これは、教育にはまだ膨大な量の課題があることを示しています。ミスターゲイベルギー2020の彼はこれに取り組み、全ての学校でより多くのLGBTQ+受け入れと多様性をもたらしたいと考えています!」と結んでいる。
Gisteren werd Mr Gay Belgium 2020 Joren Houtevels uitgenodigd door basisschool BS De Cocon om enkele lessen te geven...
Mr. Gay Belgiumさんの投稿 2020年10月28日水曜日
大学のカリキュラム上の教育実習とは別に、独自にこうした活動が出来ているのは本人にとっても大変貴重な体験となっていることだろう。
このミスターゲイコンテストには世界大会があり、ヨーレンはこちらも来年に延期された南アフリカで開催予定の Mr Gay World に出場予定だ。
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ミスターゲイ日本コンテストも2年前から開始
そして、実は日本でも2008年に ミスターゲイジャパン コンテスト @mrgayjapan が初めて開催され、当時東京で高校教師をしていた SHOGO さんが初代日本代表に輝いている(現在はオーストラリアに移住し、同じく教員をしている)。社会的マイノリティ全般に関する情報発信をしているウェブメディア「soar(ソアー)」のインタビュー記事「"カミングアウトすること"だけが正解じゃない。先生をしながらミスター・ゲイ・ジャパンとして活動するSHOGOさん」の中で、自らゲイと自覚した経験、ミスターゲイジャパンへの応募の経緯、ミスターゲイジャパンとしての活動や本業の教師として学校や地域でのLGBTQ+への理解促進への抱負を語っている。
今年のミスターゲイジャパンコンテストは2月中旬からインスタグラムでファイナリストへのパブリック投票を経て4月上旬に開催予定だったが、コロナウイルス感染拡大により延期となっていて、現時点でまだ新日程は発表されていない。
これから代表に選ばれるミスターゲイ日本には、最近取り沙汰されている政治家の差別発言や、停滞する同性婚の議論など、LGBTQ+を取り巻く環境では先行するベルギー代表とは比べ物にならないくらい国内に多くの課題を背負っているが、世界大会での各国代表たちとの交流を通じて、日本のLGBTQ+当事者のための有意義な活動に取り組んでもらいたいし、陰ながら応援したい。
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*LGBTは知っているけれども LGBTQI って何?と仰る方は、下記記事の最後に詳しく説明しているので
併せてお読み下さいませ。
「コロナ禍でゲイタウンもひっそりと」
「同性婚導入17年経過のベルギー、新婚の40組に1組は同性同士」