新型コロナウイルスはここブリュッセルのゲイ達の夜の遊び場にも大きな影響を与えている。ゲイタウンでもwithコロナの「新しい行動様式」が求められ、ソーシャルディスタシングをはじめ様々な制約が課せられている。ゲイコミュニティではたとえ初対面でも挨拶がわりの頰キス・ビズがごく当たり前の慣習だったが、ひとまず封印されたかたちだ。マッチングアプリを通じてのデートも自制が求められる。「ソーシャルバブル」と呼ばれる家に遊びに行ったり招いたり出来る人数は、同居する家族以外の5人までと限定されている。以前は1週間ごとにその5人のメンバーは変更出来たが、少し前から現時点まで全く同じ5人に限られている。濃厚接触が許される対象がこの少人数に限られたのでは恋活もままならない。
ベルギーでのコロナ感染状況
3月18日にロックダウン(都市封鎖)が開始されたベルギーだが、それに先立ちレストランやカフェ、バーなどの飲食店は13日の金曜日の夜(14日0時)をもって閉店。僕はちょうどこの日、卒業旅行で日本からやって来たゲイの男の子(僕のブログ『ヨーロッパ発 日欧ミドルGAYカップルのツレ連れ日記』の読者さんで事前に連絡をもらっていた)と初顔合わせし何軒かハシゴした後で、日付が変わるカウントダウン前に多くの店で一斉にお客を追い出しにかかっているのを横目に彼をホテルへ送り届けたのだった。
そもそもベルギーでのコロナ感染拡大の発端は2月最終週のカーニバル休暇だった。この時期は子供連れなどを中心にスイスやフランス、オーストリアや北イタリアなどへスキーに出掛ける家族が多い。当時受講していたフランス語コースで、北イタリアのスキーリゾートで1週間過ごして来たとのエピソードを休暇明けに漏れ聞いたりもしたが、その頃はまだそこまでの警戒感を持っているクラスメートも少なかった。コロナ感染は中国などアジアかイタリアでのことで、ベルギーではまだまだ完全に対岸の火事扱いだった。ベルギーでの最初の感染例は2月初め武漢からの帰国者1名だけで、その後の新規感染者の報告はなかったが、この休暇直後の3月に入り実施されたPCR検査の結果で243名中5名の陽性者が確認された。その全員が北イタリアからの帰国者であった。それからは感染者の数は指数関数的に増えていった。
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一方で僕ら夫夫(夫婦と同様に"ふうふ"と読む)の友達にも新型コロナウイルスの症状が出ていた。どちらもゲイカップルで、ヨーロッパの人気ゲイリゾートの街、スペインのシッチェス(バルセロナから約40km)へ遊びに行っていた。帰国してしばらく経ってからそれぞれのカップルの片方が新型コロナウイルスの症状が出てしまって寝込んでいた。電話での医師の問診により新型コロナウイルスと診断されたが、幸いどちらも軽症で済んでこれまで後遺症や再発も無いようで一安心だ。そのうち1組はシッチェスにアパートメントを所有しているので年数回は遊びに行くのだが、3月に訪れた時はお目当てのビーチは封鎖、店も閉店となってしまってほぼ部屋に監禁状態、更には帰国の予定フライトがキャンセルになってしまって、滞在が数日延びたというおまけ付きだった。
4月に入るとイタリアやスペインのはるか後ろから追っていたベルギーは人口あたりの感染率で追いつき、4月中旬には人口あたりの死亡者数で世界ワーストを記録した。それは検査で陽性と確認されていない老人ホームでの死者数を感染死亡としてカウントしたためだった(ホームでの死者のうち陽性と判明したのはわずか8%で、9割は疑いのまま感染死亡扱いされた)。しかもこのホームでの疑い例のほうが病院での死者数を一時上回り、今現在までの累計死者数でもほぼ全体の半数を占める結果となっている。そのためかロックダウンの段階解除も周辺国に比べ、遅いペースで緩和する羽目になってしまった。特にレストランやカフェ、バーなどの飲食店はテイクアウト対応店を除き、3月中旬から6月中旬までの丸3ヶ月間営業停止状態となり、各種助成金や補償はあったにせよ甚大な打撃を受けた。
6月中旬の営業再開後もリモートワークの推奨継続で昼間のレストランなどは苦境が続いているが、ビールの国ベルギーだからかブリュッセルの夜の盛り場はそれまでの鬱憤を晴らすかのように賑わいを取り戻し、あちこちでかなりの密状態が発生していた。
ゲイタウンへの人出が劇的に減った
が、本来ならそれらの盛り場に負けず劣らず盛り上がるゲイタウンは意外にもひっそりとしていた。夜遊びに旺盛なゲイ達は意外にもコロナウイルスに対しては正しく恐れながら適切に遊んでいるようだ。僕らの住むアパルトマンからゲイタウンまでは徒歩15分ほどとかなり近いのだが、僕ら自身はほとんどゲイバーではお酒を飲まない。ただ、好物のクラフトビールを提供するバーがその周辺に点在するので、このゲイストリートは定期的に通り過ぎる。この夏は日本のように暑い日々も多く、外へ飲みに繰り出すには絶好の好天に恵まれた。それなのに、7,8月になっても週末のゲイストリートの人出は例年に比べ劇的に少なかった。国外への旅行はリスクが高いということで、国内に留まるゲイ達が多かったにも関わらずである。
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ちなみに2年前の秋(2018年10月26日)、かなり日も短くなり寒くなってきた頃の写真が残っていたが、深夜0時前の同じストリートの様子を見てみると、通りで人々が談笑しているのが見て取れる。夏ならば群がったゲイ達の声が周囲一帯にこだまするほどの賑わいになる。
筆者撮影 © hiquirin
通りの反対側からみると、もっと密集・密接している。

筆者撮影 © hiquirin
6月26日 23時頃
筆者撮影 © hiquirin(以下同様)
8月7日 23:30過ぎ
とても不思議な光景に映ったのでゲイバーに定期的に通う友達何人かに訊いてみると、なるほど!と納得する答えが返ってきた。各バーとも店舗前のテラスから通りに迫り出しての立ち飲みは禁止されているとのことだった。道に出てうろちょろしては飲食店に義務付けられている追跡フォームに個人情報を記載しても、きちんと感染経路を追えないという理屈だ。ということで、ゲイ達もきちんとルールを守って各種制約のある環境の中で楽しんでいるし、ゲイバー通いが日常だった友人も専ら家飲みにシフトしていると語っていた。僕ら夫夫と同様に多くのゲイ達は「新しい生活様式」を遵守しながら、ストレート(異性愛者)の市民と変わらぬ日常生活を送っている。
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ベルギーも先月から第2波が到来し、7月末にはブリュッセル市内の繁華街でマスク着用が義務化、8月中旬には市内全域での義務化となり、警察のパトロールも強化されて、違反すると容赦なく高額な罰金が課せられる。ドイツ・ベルリンを筆頭にコロナの各種規制、特にマスク着用に抗議するデモが広がる中、ベルギーでの運動は小規模なものにとどまっている。
不可解な国ベルギーで、ゲイタウンと警察署とのシュールな位置関係
さて、このゲイストリート入口の目と鼻の先には、交差する横道一本挟んでブリュッセル市警察の本部がある(同じマルシェ・オ・シャルボン通り)。ベルギーでは2018年末に当時のミシェル首相が辞任して、昨年5月の総選挙を経ても今日現在まで連立協議が難航し新内閣が組閣できない状況が続き、現在もコロナ対策を目的としたウィルメス首相の暫定内閣のまま。その正式な組閣が出来ていない無政府状態は8月29日現在、621日(約1年8ヶ月)と記録を更新中だ。ちなみに過去には2010年〜2011年にかけて541日の無政府状態の末、ゲイのエリオ・
この連載では、ベルギーおよびEUの首都ブリュッセルよりヨーロッパの LGBTQI* 事情を定期的にお伝えしていきたいと思っている。
*LGBTQI : LGBTという言葉は日本でもここ数年でだいぶ浸透したと思われるが、耳慣れない他の頭文字と併せもう一度おさらいを。
L(Lesbian): レズビアン(女性同性愛者)
G(Gay): ゲイ(男性同性愛者)
B(Bisexual): バイセクシュアル(男女両方をどちらにも性愛感情を抱く両性愛者)
T(Transgender): トランスジェンダー(生まれた時の性別と、自分自身が心で感じている性別や生きていきたい性別が異なっている人々)
Q(Questioning, Queer) : クエスチョニング(自身の性自認・ジェンダーや性的指向・恋愛対象がはっきりしない人々)
または、クィア(性的マイノリティの総称、LGBTとほぼ同義)を指し、これら2つの違う意味を含んでいる。
I(Intersex): インターセックス(身体的な性が一般的に定められた男性と女性の中間、もしくはどちらとも一致しない状態の人々)
他に A(Asexual): アセクシャル、エイセクシャル(他者に対して恋愛感情や性的欲求を抱くことのない無性愛者)や別の細分化したセクシャリティを加えて、LGBTQIA+ などと表現することもある。