<中国の南シナ海への進出などで海洋警備が課題のインドネシア海軍だが、使っている艦船の多くは建造から数十年も経過したお古。新造艦の予算が取れる一方で老朽艦がオシャカになる事故も続く>

インドネシア海軍第3艦隊(西パプア州ソロン基地)所属のミサイル艇が9月11日、火災を引き起こし沈没する事故があった。乗員37人は全員無事だったが、海軍は2017年12月に続いて2隻目の保有艦艇を事故で失ったことになり、事態を重く見た海軍が詳しい原因調査に乗りだした。

インドネシア東部の西パプア州ソロン海軍基地に真水の補給に向かっていた同基地艦隊所属のミサイル艇「レンチョン622」がソロン沖合で火災を起こし、その後沈没する事故が起きた。

参考記事:インドネシアが中国に対抗、南シナ海の一部海域に独自の新名称

火災は11日の午前7時頃、同艇のエンジンルームから出火し、消火活動もむなしく艇全体に延焼。乗員は脱出して難を逃れたものの、船は黒煙を上げて炎上し続け沈没した。エンジンルームのガスタービンが予期せぬトラブルに見舞われ停止した直後に出火したとしており、何らかのエンジントラブルないし技術的問題が生じたとの見方が強い。

同艇が海上で黒煙とともに炎上する様子は地元インドネシアの民放テレビで大々的に流され、海軍関係者は衝撃を受けている。

領海内の外国不法漁船の摘発が任務

それというのもインドネシア海軍では、別のミサイル艇「シバル847」が2017年12月にマラッカ海峡を航行中に天候不良が原因とみられる浸水事故でえい航中に沈没する事故を起こしており、過去9カ月の間にミサイル艇2艇を沈没で失ったことになるからだ。

「レンチョン622」は主にインドネシア東部のバンダ海、マルク諸島周辺、スラウェシ島東部海域のセレベス海などのインドネシア領海で操業する外国の不法漁船の取り締まり、摘発活動に当たっていた。この海域では主にベトナム、台湾の漁船が不法操業をしており、同艇はミサイル艇という小回りが利く艦艇として、違法漁船の発見、追跡、拿捕が業務だった。

またマラッカ海峡で浸水事故を起こした「シバル847」は主に同海峡を活動海域としている海賊や海上武装集団の監視警戒行動をその任務としていた。

このように海洋法執行機関の艦船不足、人員不足から海軍は本来の任務に加えて不法操業する漁船対策や海賊対策に駆り出されているのが実状で、その大半が旧型艦船や海外から購入した中古艦船のため、故障や事故が頻発しているという。

実際、マラッカ海峡で浸水事故を起こした「シバル847」ミサイル艇は1968年オーストラリアで建造された艦艇で、1973年にインドネシアに引き渡されて以来運用している旧式艦艇だったという。

火災を引き起こし沈没するインドネシア海軍のミサイル艇「レンチョン622」 Antara TV / YouTube
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外国の違法操業漁船には強硬姿勢

今回の火災事故やマラッカ海峡での沈没事故とは直接は関係ないものの、インドネシアは広大な領海での漁業権益保護のために日本の海上保安庁に当たる海上保安機構が主にその対処にあたっている。しかし海上保安機構所属の艦船だけでは到底手がたりないのが実状で、海軍の軍艦を動員して領海内の違法操業漁船対策に乗り出している。

実際に逃走しようとしたり、衝突しようとしたりする違法操業外国漁船に対して、海軍艦艇が威嚇発砲や実弾射撃による非常措置で対応せざるを得ない事態も増えているという。

領海内の漁業を管轄するスシ・プジアストゥティ海洋水産相はジョコ・ウィドド大統領の意向を受けて違法操業する外国漁船の摘発に非常に積極的に取り組んでいる。

これまでにも拿捕した漁船から外国人の乗員を退去させた後に海上で漁船を爆破、破壊して沈没させるという派手なパフォーマンスをメディアに公開するなどして、インドネシアの違法操業に対する厳しい姿勢を内外に示している。

脚に刺青、サングラス姿でコーヒー片手に漁船の爆破命令を下すスシ大臣の姿は「女ゴルゴ13」ともいわれ、スシ大臣に酷似した人物が実際の漫画「ゴルゴ13」に登場したこともある。

海軍近代化が進む中での2隻消失

インドネシア海軍は群島国家インドネシアの広大な領海警備の任を担っているが、現有の兵力は人員45,000人と艦艇203隻、航空機65機に過ぎない。そして装備の大半は旧式で整備にも限界がきているのが現状という。

インドネシア政府は来年度の予算に約12億ドルを計上して海軍の新規艦船取得や武器の新規調達で装備の近代化に本格的に取り組もうとしている。

こうした動きの中でミサイル艇2隻が事故とはいえ相次いで沈没、消失したことは大きな痛手で海軍報道官のシパスルタ少将は「今後の調査結果が将来同じような事故が再発することを防止する上で役立つことを期待している」と調査に臨む姿勢を示している。

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[執筆者] 大塚智彦(ジャーナリスト) PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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