<サイレント期から近年のヒット作まで音楽に溢れるディズニー作品。それが、他のアニメ会社と一線を画す大きなアドバンテージになっていた──>
1923年の10月16日、米カリフォルニア州でささやかなアニメ制作会社が産声を上げた。その名はディズニー。以来100年を超えてもディズニー作品が世界中で愛され続けているのはなぜか。その音楽が素晴らしいからだ。
映画『ミラベルと魔法だらけの家』(2021年)の「秘密のブルーノ(We Don't Talk About Bruno)」や『アナと雪の女王』(13年)の「レット・イット・ゴー~ありのままで~(Let It Go)」に代表される近年のディズニー映画の楽曲は大成功を収めている。100年の大半にわたり、楽曲はディズニーの強みであり続けた。
1930年代以降、ディズニーは今なお世界中で親しまれている名作をほぼ10年ごとに発表してきた。
90年代のディズニー「ルネサンス」を支えたのも、音楽を軸とした物語とブロードウェイの一流の人材だった。だからこそその作品は後に舞台化され、ニューヨークやロンドンなどで長期上演されることになった。
こうした音楽的遺産はディズニー初のトーキー作品『蒸気船ウィリー』(1928年)にまでさかのぼる。
それ以前のディズニーは数あるアニメスタジオの1つにすぎなかった。だが同期音声という技術を用いてミッキーマウスに歌わせたことで、ミッキーは大スターになり、ディズニーは業界を代表するスタジオとしての地位を確立した。
創立から最初の5年はどうだったか。あの時代はまだ「サイレント期」で、サウンドトラックがなく、上映時には地元のオルガニストなどによる演奏が行われていた。それでもディズニー作品は当初から音にこだわっていた。
この時期に制作した『アリス・コメディ』や『オズワルド・ザ・ラッキー・ラビット』シリーズは音楽性が高い。初期のアニメでは、登場人物が歌ったり演奏したりする場面で音や音楽を想起させる演出が用いられた。
『アリス・コメディ』シリーズの第1作『アリスの不思議の国』(1923年)には猫バンドが登場し、楽器から音符が立ち上がり、動物たちがそれに合わせて踊っていた。
擬音的な音の表現も
『オズワルド』シリーズの最初の作品は『かわいそうなパパ』(1927年)だ。擬音的な音の表現が用いられ、眠る登場人物のいびきを示す「ZZZ」や恋人同士の「チュ」、殴られた際の「イタッ」などの擬音表現がみられた。
こうした表現には無生物から発せられる擬音語も含まれ、耳に聞こえる音を文字や音で示していた。列車の「ガタンゴトン」や自動車の「プップー」、鉄砲の「バン」などだ。
サイレント期の作品は当時の流行曲を巧みに利用していた。例えば『かわいそうなパパ』は、1926年にヒットした同名の楽曲を下敷きにした作品だ。原曲の歌詞でも、子供に振り回される父親の姿が滑稽に描かれている。
愛されるキャラクターと素敵な音楽の絶妙なハーモニーがある限り、ディズニーは今後も安泰だろう。
Malcolm Cook, Associate Professor in Film Studies, University of Southampton
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