<映画『ウィキッド』前編を締めくくる「自由を求めて」は、「虹の彼方へ」や「レット・イット・ゴー」と共に作品を超えた意味を持つ──>

大ヒットミュージカル『ウィキッド(Wicked)』が映画作品に生まれ変わったのを機に、今また観客を魅了しているのが、スティーブン・シュワルツによる印象的な楽曲の数々だ。

「Popular(ポピュラー)」「The Wizard and I(魔法使いと私)」「For Good(あなたを忘れない)」などのヒット曲とそれを歌うヒロインによって、この作品はますます魅力を増している。

映画『ウィキッド ふたりの魔女』予告編

多くのブロードウェイ・ミュージカル作品では、男女のロマンスを歌うデュエットが定番だ。だが映画『ウィキッド』では2人の女性主人公、エルファバ(シンシア・エリボ)とグリンダ(アリアナ・グランデ)が、楽曲の大半をデュオで歌い上げる。

なかでも核に据えられている曲が、舞台版では第1幕を締めくくり、映画版前編『ふたりの魔女』ではフィナーレを飾る「Defying Gravity(自由を求めて)」だ。

曲のクライマックスでエルファバは、自分を縛ってきたものを振り払い、「重力(グラヴィティ)」から解放され、魔法の力を受け入れて孤高の道を選ぶ覚悟を決める。

2004年トニー賞での「Defying Gravity」のパフォーマンス

2人の会話に始まり、転調しながらエルファバの決意の叫びへと盛り上がるこの曲は、まさにミュージカルフィナーレの王道そのものだ。エルファバの旅立ちをグリンダが見届けるという点も、このシーンを名場面たらしめている。

何者にも屈せず自分を信じ、ありのままの自分を肯定するというテーマに焦点を当てることで、この曲は『ウィキッド』という作品の枠を超越する意味を持つようになった。

クィアな要素を忍ばせて

エリボはこのシーンについて、エルファバが「自分を傷つけ人間性を奪ってきたものに、もう二度と屈服させられはしない」と決意する重要な場面だと語っている。

ヒロインたちの力強さと2人の友情を描くだけでなく、『ウィキッド』はクィア(性的少数者)な意味合いをほのめかしたミュージカルの1つでもある。

米プリンストン大学のステイシー・ウルフ教授(演劇・ミュージカル研究)は、同作が「エルファバとグリンダのクィア・ロマンスを描いている」と言う。

だからこそ「自由を求めて」は、ミュージカル映画『オズの魔法使』のクィア賛歌である「Over the Rainbow(虹の彼方に)」と肩を並べる。実際、シュワルツは全編を通して何度も「unlimited(限界はない)」という歌詞に乗せ、「虹の彼方に」を思わせる旋律を忍ばせている。

Somewhere Over the Rainbow - The Wizard of Oz
「自由を求めて」の段階的に盛り上がる構成は、同じくクィア要素を持つミュージカル『ラ・カージュ・オ・フォール』の「I Am What I Am(ありのままの私)」や、ディズニー映画『アナと雪の女王』の「Let It Go(レット・イット・ゴー~ありのままで~)」にも影響を与えた。

心揺さぶる伴奏と高まっていくボーカルラインは、ミュージカルの伝統を踏襲する。一方で、その音楽スタイルと自己実現のメッセージは極めて現代的だ。

映画『ウィキッド』が世界で上映される今、「自由を求めて」の曲に込められた「誰にでも飛ぶチャンスはある」という思いは、より多くの人の心にいっそう切実に響くだろう。互いの違いを受け入れ、ありのまま生きることを力強く描いたこのミュージカルを象徴する、代表的な一曲だ。

The Conversation

Hannah Thuraisingam Robbins, Associate Professor in Popular Music/Director of Black Studies, University of Nottingham

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

【関連記事】
■「邪悪な魔女」はアメリカの歴史そのもの...歌と魔法に包まれた『ウィキッド』が描く「現実社会の苦さ」
■ミュージカルは「なぜいきなり歌うのか?」...問いの答えは、意外にもシンプルだった
■今度は「グリンダが主人公」...『ウィキッド』後編の魅力はシリアスな展開と「魔女コンビ」の圧倒的歌唱力

細胞を「生物学的資産」として管理する時代へ──iPS細胞治療の最前線
細胞を「生物学的資産」として管理する時代へ──iPS細胞治療の最前線
ニューズウィーク日本版 台湾有事の新シナリオ
2026年4月21号(4月14日発売)は「台湾有事の新シナリオ」特集。

米・イラン戦争で変わる地域紛争の「大前提」/石油危機を恐れるべき理由

※バックナンバーが読み放題となる 定期購読はこちら
※画像をクリックするとアマゾンに飛びます