世界保健機関(WHO)の下で働く科学者たちのおかげで、使っている歯ブラシに発がん性リスクはないとほぼ確信していいだろう。過去40年間にわたり、WHO傘下の国際がん研究機関(IARC)は、ヒ素から整髪料まで989の物質や行為などを評価してきた。

 その結果、ヒトに対し発がん性リスクが「恐らくない」のはわずかに1つ、ストレッチ性のヨガパンツや歯ブラシの毛に使われているナイロンの成分だけだった。

 残りの988の物質は、IARCによると、ある程度のリスクがあるか、さらなる調査が必要だという。同機関が挙げる発がん性の高い物質のなかには、プルトニウムやマスタードガスや喫煙といった明らかに有害なものが含まれている。

 だが、その他は意外性に満ちている。例えば、木材粉じんや中国の塩漬けされた干し魚は、発がん性が認められる「グループ1」にランクされている。

 IARCは、塗装業には発がん性が認められ、携帯電話の使用も恐らくそうだとしている。また、パイロットや看護師のようなシフト勤務の仕事も「恐らく発がん性がある」としている。同機関は昨年10月、加工肉をプルトニウムと同じ「グループ1」に分類した。

 IARCのこのような分類に、とりわけ科学者ではない人たちは困惑している。

 世界で年間800万人以上が命を落とし、1400万人超の新たな患者を生み出しているがんの世界的権威として、IARCは多大な影響力をもち、批判的な人たちの間でさえ、敬意を表する者もいる。

 その一方で、学術界や産業界、公衆衛生の専門家たちは、IARCが人々や政策当局者を混乱させていると主張。発がん性リスクがあるかどうかを検討し、それを伝えるIARCのやり方には欠陥があり、改革が必要だと批判する声も上がっている。

 赤身肉には発がん性の恐れが、加工肉には発がん性が認められるとして分類すべきとのIARCの発表には、監督する立場のWHOでさえ不意打ちを食らったような格好だ。WHO報道官は、IARCの決定が肉の摂取をやめるべきということを意味するわけではない、としている。

 問題なのは、IARCのこのような分類が、何百万人もの生活、国家や多国籍企業の経済活動に影響を及ぼしかねないということだ。それは化学物質の認可、消費者の製品選択やライフスタイルなど多くのことに波及する。

 だが、IARCの分類はほとんど理解されておらず、世の中の役にあまり立っていないと、米国立がん研究所にかつて在籍し、現在は国際疫学研究所で生物統計学のディレクターを務めるボブ・タローン氏は指摘。「科学の役にも、規制当局の役にも立たない。それに人々を混乱に陥れるだけだ」と語った。

加工肉とたばこが同じ分類