「しかしねぇ、唇亡歯寒(唇がなければ、歯が寒い)だろう?」と声のトーンを落とした。

「唇」は言うまでもなく北朝鮮のことで、「歯」は北朝鮮と国境を接する中国大陸のことだ。

 もし「ならず者」の北朝鮮を滅ぼしてしまったとなれば、朝鮮半島を統一するのは韓国という民主主義陣営ということになり、米軍が中国の隣に、陸続きで駐留することになる。

 それではあまりに「歯が寒い」。防波堤が無くなってしまう。

 このアメリカ軍という存在さえなければ、北朝鮮などサッサと見捨てても構わないのだが、そうもいかないところに中国の激しいジレンマがある。

中国の足元を見る金正恩

 その中国の足元を見ているのが金正恩だ。

「滅ぼすなら滅ぼしてみろよ。困るのはお前だろう?それとも唇なしでもいいのかい?」という心が、金正恩に「やりたい放題」の無法者ぶりを許しているのである。

 中国としては北朝鮮が改革開放を推進して自立してくれればと思い、中朝国境の周辺に経済特区を設けて中朝貿易を推進させている。しかし改革開放に熱心だった張成沢(チャン・ソンテク)(金正恩の義理の叔父)が残虐な形で公開処刑(2013年12月)されてからというもの、改革開放の可能性は低まり、中朝関係も最悪の事態になっていた。

 特に習近平国家主席が北朝鮮より先に韓国を訪問したことは、金正恩のメンツを潰し、北朝鮮の国民に自らの強さを見せつけなければならない状態に追い込んだにちがいない。

今後、中国はどう出るか?

 問題は、今後中国がどう出るかだ。

 北の暴走を避けるために、中国による北への独自制裁はしないだろうが、しかし国連安保理常任理事国における非難決議案や経済制裁に関しては賛同し、実行するだろう。事実、習近平政権時代に入ってからは対北朝鮮制裁に賛同し、かつ実行している(2013年)。

 国連安保理常任理事会での決議なら、全体の決議なので仕方がないと、北朝鮮に対して弁明できる。

 安保理常任理事会で(中国が)拒否権を使えばいいだろうと北朝鮮は中国を責めるだろうが、しかし中国も、そういつまでも「唇」のことばかり気にしているわけにもいかない。北朝鮮が中国の期待を裏切ったのだからと、中国は言うだろう。