視野狭窄のSNS

付言すると、本や雑誌というものは政府広報ではなく、極めて雑多な表現が許される媒体である。新聞やテレビ以上に、玉石混交のメディアと言ってもいい。明らかな危険思想でもない限り、出版を差し止める理由にはならない。いや、危険思想であっても差し止めをすべきではないのかもしれない。

本や雑誌は新聞テレビと比べて公共性が高くない上に、読者に強制的に見せるものでもない。ゆえに「嫌なら読むな」という理屈がある程度は成り立つ。

SNSを開けば、発達障害の人に対する攻撃的な言葉があふれている。現実世界でも、同様の言葉を耳にすることがある。そういう言葉に傷ついてきた当事者たちが、やり場のない怒りのはけ口として、感情の矛先をこの本に向けているようにも見える。

SNSに盛んに書き込みをしている人々というのは、既存メディアに対する反感が強い。だが、反感の裏返しとして、メディアに対して過剰なほどの無謬性や権威性、絶対性を夢見ているのではないか。

平たく言えば「既存メディアは絶対に間違ったことを書いてはいけない」という思い込みがある。

間違いは良いことではないが、人間が作るものである以上、多かれ少なかれ間違いは起こりうる。ネット空間はどんな差別表現もOKで、既存メディアは些細な逸脱すら許されないのだとしたら、そんなおかしな話はないだろう。

現在批判の声をあげている人々は、SNS特有の視野狭窄に陥っているようにも見える。擬人化された動物イラストと「困った人」という文言だけをスマホの小さな画面で見ていると、確かにとんでもない本のように見えるかもしれない。

だが、目次を見ればだいぶ印象は変わるだろうし、もっと言えば、この本は世の中に無数にあるうちの一冊に過ぎない。別に素晴らしい本だとは思わないが、世の中に一冊ぐらい、こういう本があっても構わないと私は思う。

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