イランは左派やリベラルなナラティブを利用していたことがわかっている。たとえばイランにとっては、親パレスチナ言説は都合がよいので本物のリベラルなアメリカ人の発言を拡散することで、自国に都合のよい言説を広めつつ、社会の分断を広げることができる。逆にロシアは保守的なアメリカ人を煽っていた。

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表中のいくつかの項目について補足の説明をしておきたい。

なにかにつけて話題になりがちなサイバー攻撃はおこなわれるが、すでにその優先度は低くなっている。中露伊にとって影響工作の方がリスク少なく、効果をあげられることがわかってきたからである。

「インフォメーション・ロンダリング」は最近よく使われている手法であり、日本でも身近だ。たとえば新華社は世界100以上の国や地域と協力協定を結び、20を超える多国間組織と提携するなど、世界のメディアに情報発信できる体制を整えている。たとえば、日本ではAFPBBのサイトを見ると、パートナーメディアとして中国系メディアがずらりとならんでいる。処理水問題では中国系メディアの情報をヤフーニュースに配信していた。こうしたことが世界中で起きている。

パーセプション・ハッキングは、表に書かれている通りのことだが、近年デジタル影響工作、偽情報、認知戦への認識が広がり、危機感が共有されていることで効果が高まっている。さらに近年世界各国で利用が進んでいるレピュテーション・マネジメント企業もパーセプション・ハッキングの効果を高めている。

レピュテーション・マネジメント企業は、偽情報や認知戦を仕掛けられた時の対処をおこなう企業である。対症療法で偽情報が検索結果に表示されないようにしたり、偽情報の発信者を特定するなど表向きの成果を出すことに長けている。しかし、これらはあくまで一時的なもので、すぐに違うルートから偽情報が投入されるだけのことだ(そもそも対症療法の方がリピートオーダーを期待できるメリットがある)。おさまったように見えても、国内の反主流派を介して広まっているものには対処できない。たとえば2020年のアメリカ大統領選で偽情報は抑制されたかのように見えたものの、2021年にはアメリカ連邦議事堂襲撃の暴動が起きた。「治療は成功したが、患者は死亡した」ようなものだ。見かけ上偽情報を減らすことと、治安や平和を守ることは全く別物なのだ。

しかし、政府の担当者とレピュテーション・マネジメント企業にとっては国内の暴動は業務範囲外だからマイナスの評価にはならない。こうしたウィンウィンの関係が成立するので、レピュテーション・マネジメント企業の利用は増加しているのだろう。

政府が表向きの偽情報対策の効果をアナウンスし、レピュテーション・マネジメント企業が成功を触れ回ることで、偽情報の脅威が過度に意識されるようになり、パーセプション・ハッキングがおこないやすくなる。表中の「やっていない」攻撃もより効果的になる。やっていないから防ぎようなないが、「そんな攻撃は存在しなかった」と政府が公表しても隠蔽と騒ぎ立て、レピュテーション・マネジメント企業に支払った報酬をあげつらって批判することができる。

さらにレピュテーション・マネジメント企業の多くは、ハッキングや著作権違反をでっちあげてサイトや投稿を削除させる限りなくグレーの方法を取る。そのためその手口が暴露された場合、スキャンダルとなり、政府の信用は失墜し、パーセプション・ハッキングを仕掛けやすくなる。実際、過去にイスラエルとスペインのレピュテーション・マネジメント企業の実態が暴露され、スキャンダルになったことがある。

民主主義国が周回の遅れの対策を練っている間に
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