アステイオン

ジャーナリズム

「言論のアリーナ」としての試み──創刊100号を迎えて

2024年05月24日(金)11時00分
田所昌幸(国際大学特任教授)
図書館

PublicDomainPictures-pixabay


<ネット上に玉石混交の言説があふれる今、知的ジャーナリズムの使命とは何か。開かれた「言論のアリーナ」としての試みについて。『アステイオン』100号の巻頭言を転載>


『アステイオン』は38年前の1986年に発刊され、本号で創刊100号を迎えた。

1986年には、スマホはもちろんインターネットも一般には使われていなかった。そして38年と言えば、明治維新を起点とすると、日露戦争に勝利して明治国家の初期の目標がほぼ達成されるまでの「坂の上の雲」の時代に相当する。

その次の38年は、都市化、大正デモクラシーの興隆とその破綻。そして何よりも敗戦にいたった戦争によって特徴づけられる時代だ。

戦後から38年と言えば、イデオロギー対立で言論が硬直するのを尻目に、焼け野原だった日本が西側主要国の一員としての地位に上りつめた「日本の奇跡」の時代であった。

『アステイオン』はそれからの38年、「冷戦後」「グローバル化」「失われた30年」といった言葉で形容された時代にあって、次々に現れる新たな問題群を取り上げてきた。

100号を編集するにあたって、発刊時にすでに知的活動を展開していた執筆者、および『アステイオン』とともに知的発展を遂げた次の世代の執筆者には、それぞれが『アステイオン』で語ったテーマについて回顧するとともに、雑誌ジャーナリズムのあり方についても自由に論じてもらった。

そして当誌発刊後の「失われた30年」に執筆や研究活動を開始した若い世代には、発刊時の当誌を読んだ上で、自由に感想を書くよう依頼した。

そこには「冷戦後の時代」が終わり、ネット上に玉石混交の言説があふれる今、何をどのように問うのが知的ジャーナリズムの使命なのかという問題を解く手がかりを得たい、という狙いが込められている。

しかし「鋭く感じ、柔らかく考える」という発刊時の精神はいささかも揺らぐことはない。洗練され開かれた「言論のアリーナ」としての当誌の試みを支持するすべての人々の協力を願ってやまない。


田所昌幸(Masayuki Tadokoro)
1956年生まれ。京都大学法学部卒業。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス留学。京都大学大学院法学研究科博士課程中退。博士(法学)。姫路獨協大学法学部教授、防衛大学校教授、慶應義塾大学法学部教授を経て、現職。慶應義塾大学名誉教授。専門は国際政治学。主な著書に『「アメリカ」を超えたドル』(中央公論新社、サントリー学芸賞)、『越境の国際政治』(有斐閣)、『社会のなかのコモンズ』(共著、白水社)、『新しい地政学』(共著、東洋経済新報社)など。


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『アステイオン』100号
  特集:「言論のアリーナ」としての試み──創刊100号を迎えて
  公益財団法人サントリー文化財団
  アステイオン編集委員会 編
  CCCメディアハウス


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「アステイオントーク」のお知らせ


●トーク「『言論のアリーナ』としての試み」
果たして雑誌は生き残れるのか?――スマホはもちろん、インターネットも一般には使われていなかった1986年と形を変えず出版を続ける『アステイオン』から考える知的ジャーナリズムの未来。世代を異にする論客が予定調和なしのトークを繰り広げます!

●日時 2024年6月12日(水) 16:30~18:00

●登壇者
小川さやか氏(立命館大学大学院先端総合学術研究科教授)
トイアンナ氏(恋愛・キャリア支援ライター)
鷲田清一氏(大阪大学名誉教授、サントリー文化財団副理事長)
田所昌幸氏(国際大学特任教授、アステイオン編集委員長)※進行

YouTube Liveでの配信を予定しております(無料・一般公開)。お申し込みいただいた方に開催日前日までに配信URLをメールでお送りします(※アーカイブ配信は予定しておりません)。
お申込みはこちらから

◆登壇者略歴
小川さやか(立命館大学大学院先端総合学術研究科教授)
1978年愛知県生まれ。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科一貫制博士課程指導認定退学。博士(地域研究)。専門は文化人類学、アフリカ研究。著書に『都市を生きぬくための狡知――タンザニアの零細商人マチンガの民族誌』(世界思想社)、『チョンキンマンションのボスは知っている─―アングラ経済の人類学』(春秋社)、『「その日暮らし」の人類学―─もう一つの資本主義経済』(光文社新書)など。

トイアンナ(恋愛・キャリア支援ライター)
1987年生まれ。慶應義塾大学卒業後、外資系企業にてマーケティングに携わり、フリーライターに転身。専門は就活対策、キャリア、婚活、マーケティングなど。著書に『改訂版 確実内定』(KADOKAWA)、『モテたいわけではないのだが』(イースト・プレス)、『ハピネスエンディング株式会社』(小学館)など多数。

鷲田清一(大阪大学名誉教授、サントリー文化財団副理事長)
1949年生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程修了。哲学・倫理学専攻。関西大学教授、大阪大学教授、大阪大学総長などを歴任。著書に『分散する理性』、『モードの迷宮』(ともにサントリー学芸賞)、『人称と行為』、『だれのための仕事』、『悲鳴をあげる身体』、『メルロ=ポンティ』、『「聴く」ことの力』(桑原武夫学芸賞)、『「ぐずぐず」の理由』(読売文学賞)、『所有論』など。

田所昌幸(国際大学特任教授、アステイオン編集委員長)※進行
1956年生まれ。京都大学法学部卒業。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス留学。京都大学大学院法学研究科博士課程中退。博士(法学)。姫路獨協大学法学部教授、防衛大学校教授、慶應義塾大学法学部教授を経て、現職。慶應義塾大学名誉教授。専門は国際政治学。主な著書に『「アメリカ」を超えたドル』(中央公論新社、サントリー学芸賞)、『越境の国際政治』(有斐閣)、『社会のなかのコモンズ』(共著、白水社)、『新しい地政学』(共著、東洋経済新報社)など。

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