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文化人類学

先住民は「信じていない」...幻覚を求める欧米人が熱狂した「アヤワスカ・ツーリズム」の実態

2023年08月09日(水)11時03分
渡邊由美(戦略コンサルタント)

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【写真6】筆者とパートナーが、オナヤと暮らしながらディエタした家 筆者撮影

シピボのオナヤたちは、アヤワスカの治療儀礼を短期間での悟り体験や自分探しを求める欧米人のニーズにあわせて公開することで、商業的な成功を収めた【写真6】。

「アヤワスカ・ツーリズム」と称されるアヤワスカ・ブームは、1990年代から2000年代にその絶頂を迎え、オナヤたちに莫大な富をもたらすことになる。

さて、このような「アヤワスカ・ツーリズム」の最大の皮肉は、治療を目的にオナヤのもとを訪れる一般のシピボが稀であることを、欧米人たちは知る機会すらなかったことだ。

加えて、アヤワスカを飲む大半の外国人が治療師であるオナヤに「シャーマン」の理想を投影していたものの、シャーマンに該当する「ムラヤ」と呼ばれたシピボの呪術医たちは、50年ほど前に絶滅したといわれる。

資本主義は、シピボのコミュニティに安価で入手しやすく「効き目の見える」化学薬品をもたらした。既に普及していたキリスト教の影響も相俟って、ムラヤやオナヤによる病気直しの需要は激減していったものと考えられる。

2021年8月のある日、街頭インタビューを行ったあるシピボの女性は、オナヤのもとを訪れることがあるかという私の質問にこう返した。

「(オナヤの元には)全く行きません。何をやっているのかわからないし、信じていませんから。最終的に信じなくなった、といった方が正しいですね。でも昔はいたんですよ、本物のムラヤとオナヤが」

また別のシピボの青年は、怒りと共にこう語った。

「もうシピボには、ムラヤはおろか、オナヤすら残っていません。大量のアルコールを摂取しては酔っ払い、修行に励む代わりに呪いをかけあっている。本物のオナヤであれば、アルコールで身体を汚すことも多額のお金を要求することもありません」

それでも1人くらいは残っているのではないかと食い下がる私を見据えて、「可能性はあるかもしれませんが、私は1人のオナヤも知りません。それでも尚オナヤがいると言い張るのは、その人たちがそう信じたいからじゃないですか?」。

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