アステイオン

アステイオン・トーク

ウクライナ戦争の教訓は「理念や価値観を共有する仲間は、多いほうがいい」

2023年03月01日(水)08時10分
廣瀬陽子+山口 昇+中西 寛 構成:西村真彦(国際日本文化研究センター 機関研究員)
国旗

honglouwawa-iStock


<ロシアが中国の「ジュニアパートナー」に成り下がるなど中露関係が変わる一方で、日本にも「サハリン1・2」というリスクがある>


※前編:ウクライナ人が垣間見せた「ロシア人との意識の違い」どちらかが正しいのか?より続く

論壇誌『アステイオン』97号の特集「ウクライナ戦争――世界の視点から」をテーマに、12月に行われた廣瀬陽子・慶應義塾大学教授、山口昇・国際大学教授、中西寛・京都大学教授による座談会より。

◇ ◇ ◇

中西 既にロシアがウクライナを完全に制圧して併合するという、戦争初期の目標が実現可能とは思えない状況になっていますが、ロシアはこの問題をどう収束させ得るでしょうか?

廣瀬 本当に落としどころがなく、ロシアとウクライナのそれぞれの主張が全くかみ合っていない状態です。

2022年11月にベルギーを訪問した際にNATOの関係者ともかなり議論をしましたが、短期的に収束するという意見は全く聞かれませんでした。この戦争が長期化することは間違いなく、その後も「凍結された紛争」として決着がつかずにじわじわと残ってしまう可能性が一番高いと思います。

中西 プーチン大統領という個人ファクターについてはどうお考えでしょうか。

廣瀬 この戦争を始めたのは間違いなくプーチン大統領です。そのため、プーチン大統領が失脚すればこの戦争は終わるという議論がありますが、私はそんなに単純だとは思いません。もちろん彼は今回の戦争のキーマンでありますが、その彼を選んだのはロシア人です。

ロシアの6割以上の人が、今回の戦争は欧米のせいで起きたと考えています。そういう人たちは、この戦争に負けたときに「強いと思っていたプーチン大統領でも駄目だった。もっと強い指導者が必要だ」と考える可能性があります。

今、ロシアのクレムリンは好戦的な強硬派と和平派で分裂しており、その間にプーチン大統領がいるという構図があるようですが、ポスト・プーチンのロシアでは強硬派が政権を取り、この戦争がよりラディカルになる可能性もあります。

中西 では、中央アジア諸国やベラルーシとの関係はどうでしょうか。

廣瀬 旧ソ連圏でロシアの戦争を支援しているのは、ベラルーシのみです。ベラルーシも積極的に支援しているわけではなく、やむなく......というニュアンスですし、ほかの国に至っては明確にこの戦争に反対をしていて、ロシアに対してかなり厳しい口調で物を言う国も増えてきています。

旧ソ連圏の国々からすると、これまではロシアが怖いから順従してきた側面があります。しかし今回、ロシアの弱さが白日の下に晒され、もうロシアを恐れなくていいのではないか、言うことを聞かなくてもいいのではないかと思い始めた国が増えています。プーチン大統領にとっては影響圏を維持することも戦争の目的の一つでしたが、自らその影響圏を崩してしまったと言えます。

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