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連載企画

「植物の土壌」研究者を訪ねた驚き──けいはんなで文系と理系を考える

2022年12月14日(水)08時10分
三谷宗一郎(甲南大学法学部准教授)

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研究内容を説明する村田氏 撮影:宮野公樹


筆者は、2019年にサントリー文化財団で開催された堂島サロンにおいて、隠岐さや香(現・東京大学大学院教育学研究科教授)を招いたセッションに陪席して以来、「学問のタコツボ化」に対して、それなりに危機意識を抱いているつもりであった。

しかし、村田の知的刺激にあふれる話を聞くうち、ふと、植物の土壌について、これまで何ら疑問を抱いたことがなかったことに気付かされた。筆者の関心は、無意識的に政治・行政・公共政策に限定され、専門外の領域については、疑問を持とうとすらしていなかったのである。そのような態度が立ちあわれてきたことは衝撃的であった。

また、理系に対するステレオタイプなイメージも覆されることになった。「理系の研究拠点」と聞くと、ついつい無駄がなく、無機質な印象を抱く人も多いのではないだろうか。

実際、サントリーワールドリサーチセンターは、地上4階建て、延床面積23,000㎡の巨大な建造物である。ところが「水・緑・土壌」を表現するその外観は、豊かな自然に囲まれた京阪奈丘陵と見事に調和している。

建物内に足を踏み入れ、エントランスから天井を見上げると、1階から4階までの一部が吹き抜けでつながっており、明るく開放的な印象を受ける。

さらに、誰もが自由に使えるオープンスペースがあちこちに設けられ、本棚を覗くと、研究に直接関係のなさそうな書籍も並んでいる。研究者の「知の交流」を促すための工夫が随所に散りばめられており、実際、村田も全く異なる専門知識を有する研究者との対話の時間を大切にしているとのことであった。

続いて一行は、サントリーワールドリサーチセンターに隣接する国立国会図書館関西館(以下、国会図書館)を訪れた。国会図書館は、1948年制定の国立国会図書館法に基づいて設立された我が国唯一の国立図書館である。

毎年、日本で発行された約70万点以上の出版物を収集しているが、東京本館(東京都千代田区永田町)の収蔵能力には限界がある。そこで収蔵スペースの確保などを目的として2002年に開館したのが関西館である。

東京本館と同様、資料の大半は、閉架式の書庫に所蔵されているが、関西館B1階の総合閲覧室には、人文・社会・自然科学の各分野に関する入門書や概説書が開架式の書架に並んでいる。

職員の方によれば、閲覧部門の担当者が初学者を対象として選書・配架しているという。全く土地勘のない分野を学ぶ場合、そもそもどの文献から読み始めればいいかわからないことも多い。総合閲覧室は、そうした学問間を越境する上での有益な手掛かりを提供してくれていると言えよう。

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