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経済学

価格を上げると需要は下がる。この需要法則はいつでも正しい法則なのか?──「需要法則」からの接近(中)

2022年11月10日(木)08時00分
安田洋祐(大阪大学大学院経済学研究科教授)

Bのような言説は、需要法則に対する誤解に基づいた間違った批判だと言えるだろう。以上から、次の教訓が得られる。


〈教訓3〉 需要法則と需要曲線のシフトを混同するべからず!


ひとつだけ注意点も述べておきたい。〈教訓3〉は、過去のデータから需要曲線について何も情報を得られない、ということまでは意味していない。需要曲線がほとんどシフトせず、代わりに価格が大きく変化するような環境で得られたデータからは、需要曲線の形状を推計することができるからだ。

たとえば、猛暑や豪雨などが原因で野菜が不作になると、通常は野菜の値段がじょじょに上がっていく。ここで需要曲線が大きくシフトするような要因がなければ、その期間に得られた価格と販売量のデータは、(ほぼ)同じ需要曲線上の異なる点を表していると解釈することができる。つまり、データから需要曲線の姿を導くことができるのだ。

〈教訓3〉は、需要曲線自体がシフトしやすい財や環境の場合には、データの解釈に十分に気を付けなければならない、という注意を喚起しているのである。

※第3回:チケットやゲーム機の高額転売は本当に悪いことなのか?──「需要法則」からの接近(下)に続く

[注]
(※1) Rosen, Sherwin. (1999) "Potato paradoxes." Journal of Political Economy 107, no. 6: 294-313.
(※2) Jensen, Robert T., and Nolan H. Miller. (2008) "Giffen behavior and subsistence consumption." American Economic Review 98, no. 4: 1553-77.


安田洋祐(Yosuke Yasuda)
1980年生まれ。東京大学経済学部卒業。米国プリンストン大学で博士号取得。政策研究大学院大学助教授を経て、現職。専門はゲーム理論、マーケットデザイン、産業組織論。主な編著書に『学校選択制のデザイン──ゲーム理論アプローチ』(NTT出版)、『改訂版 経済学で出る数字──高校数学からきちんと攻める』(日本評論社)など。



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  『アステイオン 96
 特集「経済学の常識、世間の常識」
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  アステイオン編集委員会 編
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