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経済学

「世間の常識」が経済学を変えることもある──更新し続ける経済学

2022年07月29日(金)08時07分
大竹文雄(大阪大学特任教授)

また、教育分野も現在では、多くの経済学者が取り組む重要な研究分野となっている。中室牧子の「しっかり稼げる大人にするには?──非認知能力の重要性」は、経済学の常識となったこの分野の発展の状況をわかりやすく教えてくれる。

教育経済学では「人的資本」という概念が中心になるが、人的資本という概念を用いることが、人間を機械のように扱うというような印象を世間からもたれて、拒否反応を示される背景にあるのではないか。実際、かつての経済学では、人的資本の中心は、学歴やIQで表される認知能力と所得の関係に分析が偏っていた。

しかし、教育現場では、認知能力を高めることだけを目標としてきたわけではない。日本の教育基本法では教育の目標として、第一章第二条に、「幅広い知識と教養を身に付け、真理を求める態度を養」うという認知能力の獲得に加えて「豊かな情操と道徳心を培う」、「正義と責任、男女の平等、自他の敬愛と協力を重んずるとともに、公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養う」といった非認知能力の獲得が挙げられている。

最近の非認知能力の経済分析の発展で、従来の教育経済学と教育現場とのギャップは埋められてきている。中室の論説を読めば、現在の教育経済学が教育現場に有益な情報を与えてくれることが理解できる。

経済学の常識も変わる

経済学の常識と世間の常識の間にはさまざまな理由でギャップがある。経済学の常識が広がると、社会がよりよくなるものもある。一方、まだまだ経済学が不完全なところもあるかもしれない。

しかし、経済学は日々、新しい研究成果をもとに更新され続けている。そして経済学者は、そうした成果を社会に理解可能な形で発信することも重要な仕事だ。日本の若い世代の経済学研究者は、国際的な研究成果をあげている一方で、そうした努力をしてくれている。


大竹文雄(Fumio Ohtake)
1961年生まれ。京都大学経済学部卒業。大阪大学大学院経済学研究科博士後期課程退学。博士(経済学)。大阪大学社会経済研究所助教授などを経て、現職。専門は労働経済学・行動経済学。著書に『スタディガイド入門マクロ経済学』(日本評論社)、『日本の不平等──格差社会の幻想と未来』(日本経済新聞社、サントリー学芸賞)、『競争社会の歩き方 自分の「強み」を見つけるには』(中公新書)などある。2020年、新型インフルエンザ等対策閣僚会議・感染症対策分科会委員をつとめる。



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  『アステイオン 96
 特集「経済学の常識、世間の常識」
  公益財団法人サントリー文化財団
  アステイオン編集委員会 編
  CCCメディアハウス

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