「空港返せ」「油田返せ」イラクと周辺3カ国が独立反対で四面楚歌のクルド人

2017年9月28日(木)18時36分
トム・オコナー

<歴史的な住民投票で圧倒的多数が独立に賛成したクルド自治区と、周辺国のクルド人を待つのは再度の虐殺か>

イラクの少数民族クルド人は9月25日の歴史的な住民投票で、圧倒的多数でイラクからの独立に賛成した。だが住民投票実施には、イラク政府だけでなく周辺国がそろって反発しており、14年以上戦争が続くイラクの安定に悪影響を及ぼしかねない。

今回の住民投票は、イラク北部のクルド自治区に居住する有権者が投票し、賛成票は92.73%に達した。自治政府で事実上の大統領を務めるマスード・バルザニ議長は独立賛成派の勝利を宣言し、クルド人が昔から居住するイラク北部と、イラン、シリア、トルコにまたがる地域に暮らすクルド人の自治権獲得を宣言した。だがイラクも他の3カ国も、クルド人の独立に激しく反発している。

「住民投票の結果は無効だ。憲法の枠内で対話を始めるべきだ。イラク政府は今回の結果に基づく交渉には一切応じない」と、イラクのハイダル・アバディ首相は9月27日に連邦議会で演説した。と、AFP通信は報じた。

「憲法に基づき、自治区のクルド人すべてにイラクの法律を適用する」

空港もパイプライン使わせない

アバディは住民投票について、民族差別主義で排外的な愛国主義だと批判。ロイター通信によれば、イラク政府は自治政府に対し、クルド人自治区内にある国際空港の管轄権限を引き渡すよう要求。3日以内に応じなければ国際線の発着をすべて中止すると警告した。イランとレバノン、トルコの航空会社も、自治区の中心都市アルビルと第2の都市スレイマニアの2つの空港を発着するフライトの運航を中止した。

アラブ人が多数派を占める周辺国は、分離独立を目指すクルド人に対する封鎖を強めるようアバディに迫るなか、イラク政府と自治政府の対立が大規模な武力衝突に発展する不安が高まっている。イラク連邦議会は27日、自治政府との係争地であるイラク有数の油田地帯キルクーク州などに軍を派遣し、住民投票に関与した公務員を全員解雇するようアバディに求めた。

キルクーク州で自治政府以外に影響力を持つのが、イランとイラクが支援するイスラム教シーア派民兵組織「人民動員隊」だ。キルクーク州を含むイラク各都市を一時支配下に置いたISIS(自称イスラム国)に対抗するため、クルド人主体の治安部隊やイラク軍と共にISIS掃討作戦に参加した。だが人民動員隊はクルド人の独立に反対だ。

トルコとイランはこれまで、分離独立を求めるクルド人武装勢力によるテロ攻撃に苦しんできたが、とくにトルコは深刻だ。従ってトルコ政府は、トルコ国外のクルド人独立の動きにも真っ先に反対してきた。トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領は今回の住民投票を受けて、自治政府にとって原油輸出の大動脈である石油パイプラインを遮断すると脅し、クルド人が多数派を占めるイラク北部への軍事侵攻も辞さないと警告した。実際にトルコ軍は昨年も、クルド人勢力を掃討するためシリア北部に侵攻している。

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