最新記事

映画

本当のシャネルを知りたくて

2009年9月30日(水)16時14分
ジナン・ブラウネル

帽子や恋人、宝石の話ばかり

 映画のシャネルは生き生きと愛らしいが、それが彼女のすべてではない。クリエーティブな分野で成功した男性(レイ・チャールズやジャクソン・ポロック)を描いた映画では、恋愛という要素のために彼らの成功物語のピントがぼけることはない──こう指摘するのが妥当ではないか。

「シャネルを、クリエーティブ分野の真の有力者として捉えた映画が1つでもあるだろうか?」と、インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙ファッション担当のスージー・メンケスは不満を漏らす。「どれも帽子や恋人、宝石の話ばかり。タフで逆境に強い精神がまったく伝わってこない」

 こうしたずれを最も強く感じさせるのが、『ココ・アヴァン・シャネル』のラストシーンだ。パリ本店でオートクチュールショーを行っている最中、シャネルがらせん階段の一番上に腰掛けている。

 その柔らかく優雅な表情は、自分の前を歩くモデルたちを見るうちに冷たく、超然としたものに変わっていく。複雑で興味をそそる本来の人物像とは違い、成功して強い影響力を持つようになったシャネルはとっつきにくく、傲慢といわんばかりだ。

 シャネル役のトトゥの美しさは完璧。だが、まるでオードリー・ヘプバーンのようにシャネルを演じている。現実のシャネルは、どちらかといえばキャサリン・ヘプバーンに近かったのだが。

 実は、キャサリン・ヘプバーンは69年にブロードウェイのミュージカルでシャネルを演じている。舞台が盛り上がるのは第2幕。一時期引退していたシャネルが、カムバックを構想しているときだ。

 幕が上がってヘプバーンの最初の言葉は「クソ!」。これはヘプバーン自身が脚本に入れたものだった。ココ・シャネルの物語は、必ずしもいい香りで満たす必要はないのだ。

[2009年9月 9日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミネソタ州に兵士1500人派遣も、国防総省が準備命

ワールド

EUとメルコスルがFTAに署名、25年間にわたる交

ワールド

トランプ氏、各国に10億ドル拠出要求 新国際機関構

ワールド

米政権、ベネズエラ内相と接触 マドゥロ氏拘束前から
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰に地政学リスク、その圧倒的な強みとは?
  • 2
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で国境問題が再燃
  • 3
    DNAが「全て」ではなかった...親の「後天的な特徴」も子に受け継がれ、体質や発症リスクに影響 群馬大グループが発表
  • 4
    シャーロット英王女、「カリスマ的な貫禄」を見せつ…
  • 5
    AIがついに人類に「牙をむいた」...中国系組織の「サ…
  • 6
    「リラックス」は体を壊す...ケガを防ぐ「しなやかな…
  • 7
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 8
    中国ネトウヨが「盗賊」と呼んだ大英博物館に感謝し…
  • 9
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世…
  • 10
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 6
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 7
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 8
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 9
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 10
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中