【人の世は「グレーゾーン」ばかり】

私たちはものごとに接するとき、「よい、悪い」「成功、失敗」「勝ち、負け」「味方、敵」「美、醜」といった二元論の価値判断を行いがちです。

しかし現実は、黒か白か、といったようにはっきり分けられるものではありません。

「よい、悪い」であれば、見方によってはよいけれども、別の見方をすれば悪いものもたくさんあるでしょう。「成功、失敗」であれば、成功とも失敗ともいえない結果はいくらでもあるはずです。

「勝ち、負け」にしても、勝ちか負けかは一見はっきりしているように見えますが、そんなことはありません。たとえば、戦争に勝ったとしても、たくさんの犠牲を払って戦争を起こした行為自体が人間として負けているという考え方もできます。

二元論において相反して向かい合っている価値観の間には、常にグレーゾーンが広がっています。

【「よいも悪いも、一切忘れなさい」】

私たちが足を着けている現実世界は、グレーゾーンだらけです。しかし、多くの人は、そのことを忘れて、成功や勝つこと、あるいは美しさばかりを求めて生きています。

そうした執着は、大事なものを見失わせます。

成功への過度のこだわりは、失敗から大きなことを学ぶ謙虚さを失わせかねません。自らの美への強いこだわりは、老いを否定的なものとしてとらえ、不幸な老年期をもたらしたりもするでしょう。

禅は、「両忘りょうぼう」といって、「よいも悪いも、好きも嫌いも一切忘れなさい」と戒めます。

【あるがままをそのまま受け入れる】

AかBかという二択でどちらかを、よい悪い、好き嫌いで選ぶのは、やめましょう。人間の頭が勝手に生み出す"レッテル"を忘れて、あるがままを受け入れなさい、と教えるのです。

黒か白かというものさしを脇に置けば、黒と白がさまざまな具合で混じった状態が見えてくるはずです。

しかも、黒と白の混ざり方は、時間の推移、環境や条件の変化によって刻々と変わっていきます。たとえば、雲が変わっていくような変化を何の価値判断も行わず眺めてください。それが「無常」ということです。

真実の世界は、二元論を超えたところにあります。心で素直に無常の変化を感じると、ひとつの価値観だけに囚われていたときには見えなかったものが見えてきます。

そのことは、固定した考え方から自由になるきっかけを与えてくれるはずです。

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枡野俊明『悩まない練習』(プレジデント社)

※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
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