東京都とほぼ同じ面積が被災し、おびただしい数の野生のコアラが犠牲になった南オーストラリア州カンガルー島。

東京都の約2倍、オーストラリアで三番目に大きな島であり、『野生動物の楽園』として知られるこの島は、2019-2020年の森林火災で島の約半分に当たる46%が被災。島には、野生のコアラが5万頭ほどいたはずだが、生息地の約8割を失い、火災後の最終的な頭数は1万以下と推定されている。

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森林火災がわずか1日で一気に町まで燃え広がり、辺り一面が真っ赤に染まったカンガルー島。(2020年1月撮影/CFS Promotions Unit: Kangaroo Island fire from © Josh Hann)

昨年1月、火災がまだ完全に鎮火していないときに島を訪れる機会があった。その時、真っ黒に焼け焦げた森を目の当たりにして、完全に打ちのめされた... 。記憶の中にある『緑豊かな島』とのあまりのギャップに、絶望感でいっぱいになった。

それは、まさに悪夢そのものだった......

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2019-2020年の森林火災被災エリアを黄色でマッピングしたカンガルー島の地図。(南オーストラリア州政府環境保全省

あれから1年 ───

黒焦げになった森は今、どうなっているのだろうか?

多くの野生動物が犠牲になったが、なかには真っ黒に焼けた火災現場から救助されたものもいる。救助された動物たちはどうしているのだろうか?

気になって仕方がなかった私に、島の復興を見届けるチャンスがやってきた!

命を繋ぎとめたコアラを再び森へ

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治療を終えたコアラ。四肢に重度の火傷を負っていた。(2020年1月 カンガルー・アイランド・ワイルドライフ・パークにて。筆者撮影)

数万という多大な犠牲を出したカンガルー島のコアラ。カンガルー島森林火災の第一報を聞いた時には、その惨状に、胸が張り裂けそうになったのを覚えている。しばらくして、コアラやカンガルーなどの多くの野生動物たちが、消火活動に当たっていた消防士や市民らによる必死の救助活動によって、火災現場から助けだされていることが伝えられた。

火災発生時から、計約650頭のコアラが火災現場から救助されたというが、せっかく助けられても火傷が酷かったり、煙を吸い込んだせいで重度の肺炎を起こすなどして、死んでしまったり、やむを得ず安楽死となったものも多かった。そんななかでも、助かった動物たちが再び野生で暮らせるようになってほしいと、豪国内各地からボランティア獣医が駆けつけ、寝ずに治療し、地元の人たちが懸命の介護とリハビリを続けてきた。

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他州から駆け付けた獣医が、火傷を負ったコアラに治療を施す。(2020年1月 カンガルー・アイランド・ワイルドライフ・パークにて。筆者撮影)

「救助されたコアラの4割程度に当たる約250頭は、森へ帰すことができています」

そう話してくれたのは、島の中央部にある動物園「カンガルー・アイランド・ワイルドライフ・パーク」のオーナー、ダナ・ミッチェルさんだ。

ダナさん夫妻が切り盛りするこの動物園は、もともと交通事故などで傷ついた島の野生動物のレスキュー&リハビリ・センターを兼ねていたが、昨年の森林火災の際には、火災現場から被災した野生動物たちが続々と運び込まれた。その数、なんと800匹(頭)以上!

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カンガルー・アイランド・ワイルドライフ・パークのオーナー、ダナ・ミッチェルさん。(2021年3月 筆者撮影)

史上最大の野生動物救出作戦

当時、カンガルー島の森林火災のあまりの深刻さに、オーストラリア政府は、支援活動に当たる予備役兵士約1,400人(※最終的な稼働人員数)を派遣。このうちの一部の部隊は、この動物園へ運び込まれる野生動物のために、敷地内に仮設病院や飼育施設を設置し、動物の世話に当たっていたほど、島の野生動物への被害は甚大だった。

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被災コアラのための病院や飼育施設を建設し、治療を終えたコアラをブースへ移す陸軍兵たち。(2020年1月 カンガルー・アイランド・ワイルドライフ・パークにて。筆者撮影)

2020年1月9日には、この動物園に火の手が迫り、避難指示が出され、この場所を捨てて避難するか、留まって火と闘うか、という究極の選択を迫られる事態となったことも...。しかし、ダナさん夫妻は、「動物たちを見捨てるわけにはいかない!」と、一部のスタッフ、兵士、消防士らと共に留まることを決断。動物たちを守った。

この動物園を拠点とした森林火災現場からの野生動物救助・介護活動には、海外からも多くの寄付が寄せられ、オーストラリア史上最大規模の野生動物支援活動だったのではないかと、ダナさんは言う。また、カンガルー島のコアラは、本土で蔓延しているコアラ・クラミジア感染がないため、種の保存という観点からも貴重な存在として、大学などのコアラ研究にも大きく貢献していると話してくれた。

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被災コアラに餌のユーカリを与える空軍兵。(2020年1月 カンガルー・アイランド・ワイルドライフ・パークにて。筆者撮影)

迫りくる火から守り抜き、手塩にかけて介護した動物たちを野生へ帰す瞬間は、「少し寂しいけれど、最高にうれしい」とダナさん。現在は、被災を免れた森林へリリースしているが、重度の火傷で爪がだめになってしまうなど、野生で暮らすことが困難な動物たちは、このまま、この動物園で一生を過ごすことになるという。

野生のコアラが多く生息していたのは、島内でも最も被害が深刻だった「フリンダース・チェイス国立公園」だが、火災がまだ収まりきらない1年前、公園内へと続く道は途中で通行止めになっていた。それでも、行けるところまで行って目にしたのは、愕然とするような焼野原の惨状だった...。今はどうなっているのだろうか・・・

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コアラの森、復活の兆しと新たな問題

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煙で辺りが見えないほど広範囲にわたって燃え続けたカンガルー島で、決死の消火活動に当たる南オーストラリア州地方消防局。(2020年1月撮影/CFS Promotions Unit: Kangaroo Island fire from © Rob Hartill)

延焼が拡大し、最も被害が深刻だったのが、島西部の大半を占める「フリンダース・チェイス国立公園」だ。公園面積の98%が被災し、ほとんどが壊滅状態となってしまったこのエリアが、野生のコアラの一大生息地であったため、コアラたちはすみかの85%を失ってしまった。

昨年1月に訪れた際は、以下のような感じで、見渡す限り真っ黒に焼け焦げていた...(その時のリポートはこちら

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上/フリンダース・チェイス国立公園の東際から西方面を望む。下/フリンダース・チェイス国立公園へと続く道路。(2020年1月 カンガルー島にて。筆者撮影)

今回、ほぼ同じ辺りを再訪することができた。

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上/フリンダース・チェイス国立公園の東際から西方面を望む。下/フリンダース・チェイス国立公園へと続く道路。※角度を同じすればよかった、、汗(2021年3月 筆者撮影)

ご覧のように、一目見ただけでもかなり緑が復活してきているのがわかる。また、火災によって大地に落ちた種から、たくさんの植物が芽吹いていた。

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親木は火災で燃えて倒れたが、たくさんの種を内包したコーンと呼ばれる部分が火によって弾け、種が飛び出して地面に落ち、発芽するように進化してきた固有種バンクシアは、たくさんの子孫を残していた。(2021年3月 筆者撮影)

ゴンドワナ大陸に由来するものが数多く現存するオーストラリアの植物は、発芽に火などの何らかの外部要因を必要とするものも多い。太古の昔から火と共に生きてきた植物たちは、子孫へと命を繋ぎ、新たな森を再生し始めていた。驚くほどの自然の回復力(元の状態に戻ろうとする力)は、本当に目を見張るばかりだ。

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何度となく火災に遭って幹が焦げて黒くなりながら、何百年と成長していく固有種グラス・ツリーは、まさに火と共に生きる植物。幹の中の「レジン」が防火剤の役割を果たしている。左/ガイレーンさんよりも大きなグラス・ツリーは樹齢推定300年。右上/赤いのが天然のレジン成分。右下/幹の中にびっしりとレジンが詰まっている。(2021年3月 筆者撮影)

案内してくれたカンガルー・アイランド・オデッセイ社のガイレーン・イングラムさんによると、火災後、これまで見たことがなかった花が咲いているという。これまでは鬱蒼とした森に隠れ、見えなかった植物たちが、そこに生きていることを知らせているのかもしれない...とふと思った。

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上/これまで、このエリアではほとんど見たことがなかったというペーパー・デイジーの一種。下/地面に張り付くように咲いていた正体不明の植物。(2021年3月 筆者撮影)

しかし、大規模な火災によって思わぬ環境の変化が起こり、『新たな問題』が発生していると、ガイレーンさんは少し暗い顔をした。

それは一体、どういうことなのか?

ガイレーンさんの言う『新たな問題』を確かめに、島の南西部へ、そして、もう一度行きたかった南部の海岸エリアへ足を運んでみることにした。

南部の海岸には、島のシンボルともいえる奇岩やアシカやオットセイといった鰭脚類(ききゃくるい)の楽園がある。なかでも、奇岩エリアは、深刻なダメージを受けたフリンダース・チェイス国立公園内にあるが、昨年1月に来島した際には、通行止めになっていて、訪れることができなかった場所だ。

森林火災の影響はどの程度だったのだろうか...?

※次回は、カンガルー島南西部と南部の海岸エリアをリポートします。(2021/4/4:続編、UPしました! 下のリンクからどうぞ)

★この「森林火災被災地 カンガルー島、復興の記録」のコラムは、前編(=これ)と後編に分かれています。後編はこちら

以下で1年前の火災当時の島の様子を詳細にリポートしています。当時の写真も多く掲載していますので、よかったら合わせてお読みください!
カンガルー島は元気です!Part 2 ~森林火災の実際の被害状況とコアラの現状と未来

Special thanks to:Tourism Australia, South Australian Tourism Commission, Kangaroo Island Wildlife park, Kangaroo Island Odysseys