「最近になって(ISISの支配下から)解放された地域で、多くの武装組織が乱立していることのほうが心配だ」と、マンスールは言う。「住民を守るはずの武装組織が縄張りや戦利品をめぐって争っていては、住民が置き去りにされる」

政府の治安部隊ですらも夜間には出歩けない地域がある。そういう地域の住民は命が惜しければISISに協力するしかないと、シャマルマンドも認める。

村人は政府軍や武装組織が自分たちを守ってくれるとは思っていないし、飲み水や食糧、医療などが行き届いていない地域も多い。ISIS支配下での恐怖が生々しく残っているにもかかわらず、こうした事情があるために、ISISの残党の一掃は難しいと、マンスールはみている。

アブ・テバンのような僻地の村は今でも見捨てられたままで、モスルでさえ多くの地域で公的サービスや物資の流入が途絶えている。

ISIS掃討後、イラク政府への国民の支持は一気に高まったが、そのムードはいつまでも続かないだろう。「軍事的な解決では、ダーイシュという現象には対応できても、ダーイシュのような組織を台頭させた根源的な要因は未解決のままだ」と、マンスールは言う。「根源にある(社会的な)要因に誰も対処しないこと。それこそが最も危惧すべき問題ではないか」

From Foreign Policy Magazine

<本誌2019年6月11日号掲載>

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