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県民投票の全県実施を求めてハンストを行った元山(沖縄タイムス本社ビル前) PHOTOGRAPH BY KOSUKE OKAHARA FOR NEWSWEEK JAPAN
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本誌25ページより

昨年11月にもこんなことがあった。県議会の議会棟である保守系県議から呼び止められ、ひとしきり県民投票の話をした後に激励され、最後に「今度、飲みに行こうね」と誘われる。元山はこれはうれしいことだと言う。

狭い島である。ある問題をめぐって意見が対立したとしても、別の場所でも仲たがいする必要はないと元山は思う。「だって敵じゃないですからね」

県民投票で自民党分裂劇のキーマンとなった、県連会長・照屋守之ともつながりがある。照屋はほぼ単独で3択案に合意したといわれるが、自民を一本化させることができず会長職の辞任届を提出した。私たちが滞在していた時期、照屋はまさに「時の人」でメディア関係者の取材にも応じていなかった。

「照屋さんからは携帯に電話がかかってきて、『君の思いをくんだ。自分の責任で3択にしてでも全県でやるべきだと判断した』と言われましたよ。えっ、それを確かめたい? じゃあかけてみましょうか」

目の前でスマホを手に取り、元山は照屋に電話をかけた。数回のコール音のあと、照屋は電話に出た。彼は地元記者もつかまえられなかった照屋と「お疲れさまです」と親しげに会話し、取材を受けていること、私が話を聞きたいと言っている旨を丁寧に伝えてくれたが......。

「取材は勘弁してほしい、ですか。分かりました。えぇ、またよろしくお願いします」。元山は目線をこちらに向けて、首を横に振る。

「そんなわけで、ダメでした」と話す彼の姿に、沖縄の政治の一端を垣間見た気がした。大きな「分断」がそこにはなく、ある問題で考えが合わなくても、社会的な関係そのものが切れるわけではない。

元山は「リベラル」「基地反対派」といったレッテルを貼られがちだが、県民投票を求める署名活動で、県政与党も含めた既成政党への不信感が募ったとも話した。18年5月に始めたが、組織力不足から、最初の1カ月で署名は約3800筆しか集まらなかった。

そこから元山らが手弁当で街頭に立ち、「サンエー」「かねひで」といった地元のスーパーの前でも署名を集めた。彼らの署名が集まるにつれて、政党も協力へと動きだす。結果、約10万筆を集めたが、最初から協力的な政党はあったのだろうか、と思っている。

「照屋さんや保守系の政治家にも敬意はありますよ」。それは父親に対しても同じだ。ほら、見てくださいと元山はYouTubeの画面を開く。元山を追い掛けたドキュメンタリー映像の中に、かりゆしを着た父と並んで座って対話するシーンがある。

父は息子に自分の意見を伝える。「ここでも言ってますよね。うちの親は『日本に直接民主主義的な県民投票はそぐわない。危ない普天間基地を撤去してほしい。一時的であれ辺野古に移せば、少なくとも宜野湾市で事故は減る』という立場なんです」

父と息子、それぞれの立場は違うが父は息子の活動を止めることはなく、息子は父に対して敬意を払う。ハンストの裏側にある、日常だ。

<2019年2月26日号掲載>

【関連記事】「色んな人が、自分が描きたい沖縄像を言っているだけなんじゃないか」

※この記事は「沖縄ラプソディ/Okinawan Rhapsody」ルポの第1章。詳しくは2019年2月26日号「沖縄ラプソディ/Okinawan Rhapsody」特集をご覧ください。
Queen(クイーン)の名曲「Bohemian Rhapsody(ボヘミアン・ラプソディ)」は、「これは現実か、それともただの幻想か?」と問い掛けるシーンから始まる。その歌は今の沖縄にこそ当てはまるように思える。沖縄は事あるごとにメディアに登場するが、その報道の多くは一面的な事実を全てであるかのように語り、時に幻想的な「沖縄」像をつくり上げてきた。あるいは都合のいい声だけを拾い上げてきたとも言える。
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