Tamiyuki Kihara

[東京 27日 ロイター] - 北京で5月中旬に開かれた米中首脳会談を受け、日本政府・与党内には米国の対中抑止力の低下に対する警戒感が広がっている。日米関係筋によると、米国は「習近平国家主席が高市早苗首相を名指しで批判した」との情報を日本に共有した。トランプ米大統領はその場で高市氏を擁護したとされるが、会談後には台湾への武器売却を対中交渉の材料とする考えも表明した。アジア太平洋地域への米国の強い関与を前提に安全保障戦略を組み立てている日本は、トランプ氏の発言と行動の間に見え隠れする揺らぎに、疑心暗鬼を強めている。

<日米が習氏の発言内容を共有>

日米関係筋はロイターの取材に、習氏がトランプ氏に対し、「日本が再軍備化と新軍国主義化を進めている」などと発言し、高市氏を名指しで批判した、との情報を日米間で共有していることを認めた。その上で、習氏の発言の意図を「トランプ氏が求める『安定』を乱しているのは日本だ、とアピールしたかったのだろう」と分析した。米国の対日認識に揺さぶりをかけ、互いを称え合うトランプ、高市両氏の蜜月ぶりにくさびを打ち込もうとしたとの見立てだ。

トランプ氏は15日夜、北京を発った大統領専用機の中から高市氏と電話会談した。前出の関係筋によると、その中でトランプ氏は「習氏に、高市氏は素晴らしいリーダーだと伝えた」と明らかにしたという。習氏の発言内容は電話会談の場では明かされなかったが、その後、日米の実務者レベルで共有された。

同関係筋はトランプ氏と習氏が今後の両国関係を位置付ける概念として合意した「建設的な戦略的安定関係」について、「米中の間で認識に食い違いがある」とも解説する。中国側には台湾問題への米国の関与を排除する流れを既成事実化したい思惑がある一方、米国には地域での不測の衝突を防ぐために中国に釘を刺す意図があったとみる。「米国の意図がどうあれ、中国は自身に都合の良いストーリーを国内外にアピールするだろう」と危惧した。

<米国の変化の有無は武器売却が試金石に>

中国側は習氏の発言を認めておらず、木原稔官房長官も米中のやり取りについてコメントする立場にないとしている。しかし、日本政府・与党内では台湾問題をめぐるトランプ氏の姿勢の変化を警戒する声が強まっている。

トランプ氏は15日、専用機内で記者団に対し、習氏と台湾への武器売却について協議したことを明らかにした上で、売却を予定通り進めるか否かについて「まだ決めていない。近く決断を下す」などと述べるにとどめた。米フォックスニュースとのインタビューでは「保留にしている。中国次第だ。率直に言って、我々にとっては非常に有利な交渉材料だ」と語った。

政府関係者の一人は「これまでの米国の立場とは異なる発言だった」と不安視し、「今後の動向を注視していく必要がある」と懸念を示した。仮に武器売却が滞った場合、中国はトランプ政権が対中姿勢を後退させたと受け止め、抑止力の低下につながる可能性も否定できないというわけだ。その上で、日本としても米国に台湾政策の維持を働きかけていく必要があると強調した。

米国は1979年に中国と国交正常化した後も、「台湾関係法」に基づき台湾に武器を供給してきた。台湾初の総統直接選挙をきっかけに中国がミサイル演習を展開した1995─96年の台湾海峡危機時には、空母一隻を海峡に、もう一隻を付近に派遣して事態を収拾。米国の存在がこの地域の重しとして機能してきた。

安倍晋三政権で防衛相を務めた自民党の小野寺五典・税制調査会長はロイターの取材で懸念を示し、「米中の関係の変化は最も私たちが関心を持っている点だ」と語った。安全保障政策に精通する小野寺氏はトランプ、習両氏の会談前の5月上旬に訪米し、国務省や国防総省の関係者らとの間で、その時点で東アジア地域に対する米国の姿勢に変化がないことを確認したという。「米国にはよく理解してもらっている」としつつ、「確実にどういう方向にいくのかが見える指標が、台湾への武器売却だ」と指摘。「これが予定通りなら米国の台湾へのスタンスが変わらないということになる」と話した。

<専門家は日本の「対中カードへの格下げ」指摘>

米中首脳会談におけるトランプ氏、習氏双方の思惑と、日本に今後求められる取り組みを、専門家はどう分析しているのか。上智大学の前嶋和弘教授(米国政治)は、習氏の「高市批判」について、「習氏はトランプ氏が否定することを最初から分かって発言したのだろう」と見る。もしトランプ氏が発言に同調するような姿勢を見せれば中国にとって都合の良い言質を取ったことになるが、否定されてもマイナスにはならない。「習氏はトランプ氏の脇の甘さを突こうと試みた」と分析した。

一方、トランプ氏の台湾に関する「変化」については、1980年代のレーガン政権以降、台湾への武器売却について中国と事前協議をしないことなどを掲げた「六つの保証」にとって「大きな曲がり角だ」と強調。米国が対中交渉に使えるカードを多くは持ち合わせていない状況の中で、「トランプ氏が台湾をカードと考えているということだ」と語った。

加えて、トランプ氏にとっては「日本もカードになっている」とも指摘する。AI(人工知能)や半導体で米中の経済的なつながりを強化したいトランプ氏にとって、良好な日米関係は対中交渉をうまく進めるための材料でもあるというわけだ。「もはや米国にとって日本はパートナーから『対中カード』に格下げされた。日本の安全保障、経済安全保障上も大きな変化が生まれてきている」と述べた。

では、日本は今後どう立ち回るべきか。前嶋氏は「日本は米国にとって強いカードであり続ける必要がある」と説明する。トランプ氏に対し、日本との良好な関係を継続しなければ対中戦略もうまくいかない、というメッセージを繰り返し発信する必要があるとの指摘だ。その上で、「台湾について米国に変な妥協をさせないよう、トランプ政権の残りの期間、上手に働きかけ続けなければならない」と語った。

(鬼原民幸 取材協力:Tim Kelly 編集:久保信博)

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