Stephanie Kelly Seher Dareen
[ロンドン 6日 ロイター] - 米国とイランが戦闘終結の合意に達したとしても、石油需給は今後数週間でさらに引き締まる見通しだ。ペルシャ湾岸地域からの石油輸出が再開し、世界各地の製油所に届くまでには何週間もかかるので、石油各社は夏の需要がピークを迎える時期に対応するため、貯蔵タンクの取り崩しを続けることになる。
これまで中東の戦争に起因するショックを和らげる目的で活用されてきたのは、民間在庫や輸送中の石油、洋上在庫、および緊急備蓄といった一時的なバッファーだ。一方、大手エネルギー企業や投資銀行の幹部、市場アナリストらの話では、中東の生産と輸出が戦前の水準に戻るには数カ月かかり、供給途絶が市場や世界経済に与える完全な影響はまだ顕現化していない。
足元の民間在庫と緊急備蓄の急速な減少は、本来であれば北半球の夏の需要ピーク期に備えて製油業者や小売業者が在庫を積み増す時期に起きている。そのため世界のエネルギーシステムは間もなく、ドライブと航空、農業、貨物輸送に伴う消費急増に対処するには極めて脆弱な状態で需要ピーク期を迎えなければならない。
業界幹部やアナリストの分析に基づくと、こうした状況は世界のエネルギーシステムに負荷を与え、石油生産者や製油業者が供給不足を解消し、高騰した燃料価格が戦前の水準に戻るまでの期間を引き延ばすことになる。
先週にはトタルエナジーズのパトリック・プヤンヌ最高経営責任者(CEO)が「私が願うようにたとえ戦争が5月中に終わったとしても、在庫が極めて少ない状態で戦争から脱却することになるだろう」と述べ、世界の炭化水素在庫が日量1000万0-1300万バレル取り崩され、既に少なくとも5億バレルが消費されたとの見積もりを示した。
エクイノールのアンデシュ・オペダルCEOも6日、中東に平和が訪れたとしても、市場が正常に戻るには少なくとも半年はかかると予想した。
<未曾有の混乱>
トランプ米大統領は、戦争が終われば価格は急速に下落すると発言してきた。確かに戦争終結合意に至れば原油先物価格は急速に下落する可能性が高いが、歴史上最大級の供給途絶から立ち直り、現物の原油やガソリン価格が戦前の水準まで下がるには時間がかかるだろう。今年になってアナリストの価格予想は継続的に切り上がっており、先週のロイターの調査では、今年の北海ブレント先物の平均価格の予想は1バレル=86.38ドルと、1月時点の約62ドルを大きく上回っている。
戦争終結後は、世界中の国や企業が在庫の再構築や停止していた生産施設の再稼働を目指すため、需要は一層高まる可能性が高い。また供給不足に陥った一部の国は、新たな備蓄の構築も開始するだろう。
燃料の約80%を輸入に頼り、戦争開始以降不足に直面しているオーストラリアは6日、燃料備蓄を増強するために72億2000万ドルを投じる計画を発表した。
欧州連合(EU)欧州委員会は4月、加盟国に少なくとも90日分の石油備蓄を義務付けるEU規定を見直し、航空燃料に関する具体的な要件をこの規定に含めることを検討すると発表した。
戦争が始まった2月下旬以降、在庫は急速に減少している。ゴールドマン・サックスは今週、世界全体の在庫が現在の需要101日分、2月末時点の105日分から、5月末までには約98日分まで減少すると予想し、石油製品のバッファーが「急速に非常に低い水準に近づいている」と警告した。
ライスタッド・エナジーのデータでは、これまでに世界が失った石油供給量は約6億バレル。同社チーフエコノミスト、クラウディオ・ガリンベルティ氏は、輸送の正常化が5月末に始まると仮定しても、供給が正常に戻るまでに失われる供給量は計12億-20億バレルに達し、これは戦前の世界在庫の16-27%に相当すると述べた。
世界のガス供給も、カタールの液化天然ガス(LNG)生産停止や戦争中の損傷により大きな打撃を受けている。ガリンベルティ氏の話では、供給の損失はLNG換算で3000万-5000万トンと、世界の年間供給量の7-11%に相当するという。
エクソンモービルのダレン・ウッズCEOは先週のアナリストとの電話会談で「石油と天然ガスの世界的な供給における未曾有の混乱を見れば、市場がまだその全容を経験していないことは明らかだ」と語った。
モルガン・スタンレーは、米国のガソリン在庫が夏の終わりまでに約1億9800万バレルまで減少すると予想する。これは現代の記録において、その時期としての最低水準だ。政府統計によると、5月1日時点の米国のガソリン在庫は2億2000万バレル弱で、同時期としては2014年以来の低水準だった。不足に直面している諸国の需要を満たすための輸出増加が、在庫の減少を加速させている。
国際エネルギー機関(IEA)は、混乱した中東からの供給が完全に代替されない限り、欧州は早ければ6月にも航空燃料不足に直面する可能性があると警告している。
先週発表されたゴールドマン・サックスのメモによれば、アイルランドの航空燃料在庫はわずか10日分だった。
ケプラーのデータでは、アジアにおける4月の原油輸入が前年同月比で30%減少し、15年以来の低水準となった。これは、世界最大の石油消費地域における供給途絶の深刻さを浮き彫りにしている。
主要なバンカリング(船舶燃料補給)拠点であるシンガポールの陸上燃料油在庫は4月29日までの1週間に1年弱ぶりの低水準に沈んだ。
<緩慢な回復>
業界幹部やアナリストによると、たとえ供給ルートが再開したとしても、世界のエネルギーシステムがすぐに回復することはない。
エクソンのウッズ氏は、ホルムズ海峡の再開後、出荷の滞留が解消され、石油の流れが正常化するまでに1-2カ月かかると述べた。中東からEUへの輸送には平均30日、そこから米国への移動にはさらに40日を要する。
一方、国際航空運送協会(IATA)のウィリー・ウォルシュ事務局長は、中東地域で日量約2000万バレルの精製能力が止まっており、そうした精製能力の混乱が供給回復の妨げになると指摘した。中東産の燃料は、アフリカ、アジア、欧州の需要を満たす上で極めて重要とされる。