皆さんはバレンタインはどのように過ごされましたでしょうか?好きな男子、愛する旦那さまにチョコレートを贈りましたでしょうか?僕も愛する夫にプレゼントを用意し、夫も用意してくれました。

先週末から強い寒気が訪れて、雪模様となっていたここベルギー・ブリュッセル。そんな雪化粧した街中をぶらぶら歩いていると、チョコレートの国ベルギーでは、あちこちに点在するショコラトリーがバレンタインフェアを繰り広げていました。

そして、クリスマス時期に『Origamiツリーに願いを込めてアーケードをくぐって、新年を迎えよう!』で取り上げたアーケードに差し掛かると、ブリュッセル風ベルギーワッフルとビスキュイで有名な ダンドワ DANDOY のウィンドーに大きなポスターが飾られているのが目に飛び込んできました。

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男女がハート❤️ のキャンディーを唇で支え合っているこちらのポスター。コロナ禍で離ればなれになってしまっている愛する人々のことを想いながら、互いに心通わせて強く結び付きを感じよう!というメッセージが込められています。

肌の色が違う男女のモデルを意識的に起用しているのは明らかですが、褐色の肌のモデル、男女の性別がパッと見ではよく判別できないような印象がありませんか?そして、もう一つ。僕自身が当事者だからかもしれませんが、一番上の2人は男性同士に見えます。中段の3人にしても全員女性に見えなくもありません。僕には真ん中の褐色のモデルは男性かな?との印象ですが、さりとて男女どちらにも見えても不思議ではありません。恐らくはこれにも明確な意図があるものと思われます。

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帰ってきてからダンドワのホームページを見てみると、やはり上段の男性同士でしたし、中段の真ん中のモデルを除いた女性同士の写真が掲載されていました。

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ダンドワ提供 © DANDOY, Photography: Pierre Debusschere

そして、バレンタインデー限定商品がご覧のビスキュイ(ビスケット)『Pomme d'amour ポム・ダムール(愛のリンゴ)』。左から Her & Her, Her & Him, Him & Him と3種類用意されています。男女の他に女性同士、男性同士がキスしている様子をモチーフにリンゴの形をしているビスキュイとなっています。キスをして唇が触れている部分にハート型❤️のジュレがあしらわれています。女性から男性へ、またその逆で、男性から女性へビスケットをプレゼントするのと同じように、女性から女性、男性から男性へも贈ってくださいね!という提案です。ちなみにヨーロッパでは女性から男性へチョコレートという日本と逆で、男性から女性へ花束やアクセサリーをプレゼントする習慣があります。現代ではお互いにプレゼントを交換したり、二人揃ってレストランで食事をする(今年はロックダウンで開いていませんが)のも一般的で、多くのレストランがバレンタインの特別メニューを提供します。

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ダンドワ提供 © DANDOY

実はダンドワ、2年前のバレンタインにアダムとイヴから着想した真ん中の男女バージョンを販売開始したのですが、ちょうどその頃に誕生日を迎えた友人のカップルにもプレゼントしていたのですが、アイデアに惹かれて自分たちにも買ってみたのでした。その時のことをブログで綴っていました。

そして、ようやく一年後になって気づいたのですが、昨年からは密かに女性同士、男性同士のものが加わっていたのでした。昨年は2年前と同様にアダムとイヴのパネルがウィンドーに飾られていたので、僕は新たなラインナップに気づかないままだったという訳です。

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インクルーシブ・マーケティングとソーシャル・インクルージョン

とても素晴らしい季節限定商品を一歩進化させて企画したダンドワでしたが、昨年はその新たなコンセプトの打ち出し方が少し弱かったと言えます。実際3種類のビスキュイがウインドーに並んでいたとしても、かなり近づいてみないと気づきにくいですからね。パッケージに入っている状態では更に分かりずらいですしね。そういうこともあって、今年はそのメッセージがより伝わるようにアダムとイヴのパネルが外され(僕は個人的に好きでしたけど)、替わってこのポスターを飾って、改善を図ってきたのでした。

世界的に有名なグローバル企業などでは、既にLGBTを意識した広告や商品などが広く展開されてきています。しかしながら、ダンドワのように100名程度の規模でローカルな企業でもこのようなマーケティングをしているのはなかなか見上げたものです。

実際このビスキュイ売れ行きも好調のようで、バレンタイン5日前の在庫は見てのとおり。Her & Her, Him & Him の2種類は生産数が当然絶対的に少ないはずですが、それでも今回のキャンペーンは大成功のようです。

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筆者撮影 © hiquirin

LGBTムーブメント=レインボーフラッグという構図もだいぶ浸透してきて、日本でも一般にも徐々に認知されつつある状況になってきています。ですが、レインボーフラッグやプライドパレードなどは性的マイノリティーの存在をアピールする目的が強いのも事実です。そして、マジョリティー側からはマイノリティーがまた大音量で奇妙な格好をしてドンチャン騒ぎをしてる、くらいの冷めた視線を向けられることも多々あります。当事者の中にはそうしたスタイルに気後れして付いて行けず、置いてけぼりを食らったような感覚になる人々も大勢います。実際かつての僕もそうでした。

それに対し、今回のように一歩進んで、LGBTQI という性的マイノリティー当事者だけにフォーカスせずに「自然なかたち」でマジョリティーと同列に取り扱う姿勢は、マイノリティー、マジョリティー双方にとって、「好き!愛してる!という感情は、男女間でも女同士でも男同士も一緒じゃないか!」という「気づき」を生む効果が期待されます。

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こうしたマーケティング方法は「インクルーシブ・マーケティング」と呼ばれ、一人ひとりの多様性を積極的に受け入れて尊重して、これまでのマスマーケティングでは取りこぼしてきたような人々にも、あまねくアプローチしていく手法です。

インクルーシブの派生元の名詞「インクルージョン」という単語は、「包含」「包摂」を意味します。そして、価値観や考え方、政治的立場、思想・宗教、国籍や性別、性のあり方や恋愛対象など、さまざまな違いのある多様な個人を排除せずに、お互いに認め合って社会全体として包み込んでいく考え方を「ソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)」と呼びます。

コロナ禍にあって、これまでの常識のままでは太刀打ちできない様々な課題が山積みであることが可視化され、実感されたこの一年。その中には「社会的孤立」も含まれ、その深刻度が高まりを見せており、「ソーシャル・インクルージョン」の必要性が以前にも増して叫ばれています。

今回のダンドワのポスターでは、主に人種や国籍、そして性的指向(性自認も含め)という、社会において孤立しがちなマイノリティー達に焦点を当てての「社会的包摂」を訴えるものでしたが、コロナ禍の一年を経て、今後も一層様々なかたちでの「包摂」のあり方が表現され、世の中に認知されることを期待します。

今日の皆さんのバレンタインの告白の中には、もしかしたら、女子から女子に宛てての、そして、男子から男子に宛ててのものもあるかもしれません。性的マイノリティー当事者ではない人だったら、一瞬ビックリしてしまうかもしれませんが、少なくとも勇気を振り絞って告白した、もしくは好意を持っている旨を伝えた相手の気持ちには寄り添ってあげてくださいね。

そして、シャイな当事者の皆さんには、ダンドワのビスキュイが来年には日本でも手に入って、同性の好きな相手に「さりげなく」渡せるようになったら良いですね。

ということで、僕から夫へのプレゼントは、もちろん最後の一枚だったこちらです!

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メッセージカードとポスターと同じカードが同封されています。筆者撮影 © hiquirin