生理休暇は不要 議論で収拾がつかなくなる
他方、スイス人の友人Cさん(40代)は、生理休暇制度は逆効果だという意見だ。Cさんも思春期に月経を迎えてからずっと重い生理痛を抱え、出産前に子宮内膜症の治療をし、出産後にホルモン治療を受けてからは痛みが少し改善したという。子どものころは、毎回痛みに加え、精神が非常に不安定になって泣いたり自殺したいと思ったりもしたそうだ。大学時代まで鎮痛剤で生理痛を抑えて通学し、就職してからも鎮痛剤で乗り切り、生理痛で休んだことはない。
大企業でフルタイムで(一時は80%で)働いてきたCさんは、腰痛などの慢性的な痛みも抱えている。生理痛以外の痛みや病気を抱えている人もたくさんいるし、生理痛が軽い人もいるため、すべての女性に生理休暇の選択肢を与える必要はないと言う。
「一律の休暇を導入することは無意味でしょう。男女間の争いを増やすだけで、むしろ逆効果だと思います。今後、スイスでこのテーマが議論されることは恐らくないでしょう。たとえ関心が高まったとしても、あちこちで議論が起きるだけで、良い解決策は見つからないと思います」
Cさんと同じ意見をもつのは、ドイツ・ベルリンに住む雇用法専門弁護士イルカ・シュミットさんだ。ドイツでは一般平等取扱法 (AGG)により、性別による雇用上の差別が禁止されており、シュミットさんはここが争点になり得ると言う。事業者が生理休暇制度を導入するなら、男性の被雇用者が同様の休暇を要求する可能性があるからだ(ドイツのメディアグループRND)。
また、男性からだけでなく、女性からの理解が得られないことも指摘されている。例えばドイツでは、生理休暇制度は女性を弱者として見なすことになり、社会の中で男女の差を際立たせるから、かえって性差別を助長してしまう、つまり「女性雇用者は頼りにならないと受け取られるのでは」と恐れる女性たちがいるという。
さらにはフェミニストの中でも、議論は起きている。「生理という本来健康的な現象を病気休暇の範囲に入れるのは女性をゲットー化することになる」という声がある一方、「生理休暇を取得することは生理用品を無料でもらうことと同様の権利だ」という主張もある。
さらに「生理休暇の恩恵を受けるのはごく一部の女性に過ぎず、女性の誰もが利用できる休暇でなければ意味がないので、それよりも、体調不良全般に関する政策を整えるべきだ」と考えるフェミニストもいる。
PMS(月経前症候群)や非常に不快な生理痛を経験している筆者としては、鎮痛剤に依存したくない女性の気持ちはよくわかる。女性特有の生物学的現象を弱さの象徴と解釈するのは違う気がするので、生理休暇制度はあってもよいと思う。利用の仕方は個人が考えればよいのではないか。もしくは、雇用者や同僚たちの理解が深まるまで休暇ではなく、コロナ禍で一般的になったテレワークという選択肢を与えることもできると思うのだが。
