【天】日本に負けた「クオーツ・ショック」を国全体の教訓に

「天」とは、「天の時」という表現に示されるように、外部環境の中長期的な変化を競合に先んじて予測し、壮大なグランドデザインから計画的に大きな目標を実現していくためのタイミング戦略である。

スイスでは、1970年代に日本メーカーがクオーツ時計を実用化したことにより、時計産業が壊滅的な影響を受けたことを現在でも国全体の教訓にしている。

その当時、機械式時計が主流だったスイスの時計産業はまさに存亡の危機を迎えたが、スウォッチが「低価格×ファッショナブル」というポジショニング戦略で息を吹き返し、その後、同国の名門ブランドであるオメガ、ロンジン、ラドーなどを続々と買収、グループ全体でのブランド戦略が功を奏し、同社グループは世界一の時計メーカーとなった。

現在の時計メーカーの売上高ランキングでは、1位:スウォッチグループ、2位:リシュモングループ、3位:ロレックスと、スイス勢が上位を独占している。

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「クオーツ・ショック」を教訓とするスイスでは、政治・経済・社会・技術の変化を予測し、他国に先駆けて戦略を実行することが小国としての生命線であるとの共通認識がある。「IoT時代」や「第4次産業革命」と呼ばれる現在のメガテックの変化においても、同国では他国に先行しているとの自負をもっている。

同国の金融機関であるUBSは、2016年の世界経済フォーラムにおいて「第4次産業革命に最もよく対応できる国」ランキングを発表している。労働市場の柔軟性、技術水準、教育水準、インフラ水準、法的保護の5つの要素をもとに各国を評価したものであるが、これによるとスイスが第1位となっている。

自国の金融機関による分析であることから多少は割り引いて考える必要はあるものと思われるが、同国が第4次産業革命においてもリーディングカントリーとなることを意識して動いていることは間違いあるまい。

なお、「天の時」というタイミング戦略において見逃せないのは、スイスが数多くの国際機関の本部を誘致していることである。

国際業務を行う銀行のルールを決める国際決済銀行(BIS)の本部もバーゼルにあり、そのルールがバーゼル規制と呼ばれているのは有名なところであろう。このほか、国際オリンピック委員会(IOC)や国際サッカー連盟(FIFA)の本部などもスイスにあり、まさに「ゲームのルール」を決める国際機関を内在させていることも「天の時」において大きな強みになっていると言えよう。

【地】グローバル企業とグローバル人材を呼び込むための環境整備

前述したようにスイスは「小国」であるが、何より国内市場の規模が小さいことが最大の難点の1つとなっている。

すなわち国力という観点からは極めて不利な地理的環境に置かれているわけだが、「高付加価値×スイスブランド×グローバル」に特化して競争力を高めるというグランドデザインを描き、実際に世界最高水準の競争力を維持していることは既に述べた通りだ。

それぞれの産業においては高付加価値の分野に特化し、国内市場の規模が小さいという難点に対してはスイスブランドという競争優位を最大限に生かし、最初から世界市場を目指すことで競争力を高めてきたのである。

とはいえ、こうしたグランドデザインを実現するのは容易なことではない。そのために必要なヒト・モノ・カネを国内外から引き寄せることが不可欠であるからだ。

実際にスイスでは、グローバル企業の本社機能や研究機関等を招致することや、グローバル人材を呼び込むことに腐心してきた。それは、高付加価値の分野に特化して産業や企業を育成していくためには、グローバル企業やグローバル人材を引き付けることが不可欠であり、両者は表裏一体の関係にあるからだ。企業と人材の両者が揃うことで国の競争力や生産性が高められることになる。

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