ネットにも完全な自由はないわけだが、だからすべてが無意味となるわけではない。日本メディアだって、スポンサーの意向やら会社の論調やらさまざまな縛りがあるはずだ。そうした規制がある中でも、ぎりぎりのラインでメッセージを伝えようと努力するのがメディアで働く者の務めだろう。中国の厳しいメディア環境の中で表現の可能性を探る人々の努力に敬服する。
公開されなかった幻のエピソード
ただしひとつだけ、規制の壁に阻まれても、どうしてもあきらめきれないエピソードがある。それは福岡の中国系旅行会社で働く中国人青年2人の物語だ。
これまでお世話になってきた熊本に恩返しをしたいと、2人は同僚など約70人の中国人から集めたお金で支援物資を買い込み、レンタカーで被災地に向かった。私も車に乗せてもらい、その道中すべてを撮影した。地震で道路が寸断されていたこともあり、福岡から熊本までの往復には12時間がかかった。慣れない運転でへとへとになっていただろうに疲れも見せず、若者たちは走りきった。
それだけでも素晴らしいのだが、旅の最後に印象的な一幕があった。最後に私は彼らにカメラを向け、もう一度名乗って欲しいと頼んだのだが、「私たちは70人の中国人から集めたお金で支援物資を買って届けたのです。私たちだけが名前を載せてもらうわけにはいきません」と断ったのだ。無私の心とはまさにこのことではないだろうか。私は胸が熱くなった。
この青年2人のエピソードをどうしても動画にまとめて二更で配信したいと熱望したのだが、残念ながら、本社がボツにすることを決めた。中国人が積極的に日本人を助けているというエピソードは「敏感」(中国語で政治的な検閲ラインに引っかかりかねないとの意)だというのだ。そんなバカな!と憤ったが、中国側の判断を尊重するしかない。
どうにか別の形で発表できないかと模索してきたが、日本のインターネットには自由がある。中国人だけでなく日本人にもぜひ見てもらいたいので、YouTubeにアップロードすることにした。地震から1カ月半以上が過ぎ、これまで国内外で多くの報道がなされてきたが、こんな在日中国人の若者もいたことを皆さんに知ってもらいたい。