ノーベル経済学賞受賞「実証的手法で貧困と戦う」3人への称賛と批判

2019年10月21日(月)17時20分
エレナ・ボテラ

もっとも、このアプローチに対して批判がないわけではない。効果的な貧困対策を見つけるという目標が控えめ過ぎるという批判もあるのだ。

スタンフォード大学フーバー研究所のデービッド・ヘンダーソン研究員はウォール・ストリート・ジャーナル紙に寄稿し、デュフロらの手法は「目標が小さ過ぎる」と評している。途上国の貧しい子供たちの成績を向上させるために、どのような教育が有効かなどを調べるばかりで、移民や経済成長など、もっと大きな問題に直接向き合っていないというのだ。

開発の問題をマクロの視点で見てきた経済学者や他分野の研究者たちは、デュフロらが着目するような要素では富の格差をほとんど説明できないと主張する。この点では、左派と右派の両方の見方が一致している。

それでも、デュフロとバナジーとクレマーが脚光を浴びたことで、次のステップに進む道が開ける可能性がある。これをきっかけに、途上国の研究者を牽引役として、世界の経済的不平等を生むマクロの要因とミクロの要因の両方に取り組む時代がやって来るかもしれない。

©2019 The Slate Group

<本誌2019年10月29日号掲載>

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