「安い国」になった日本の現実は、日本人にとって幸せなことか

2019年11月14日(木)19時10分
加谷珪一

米中貿易戦争の影響で中国経済が失速しているが、日本にやって来る中国人観光客の勢いは衰えていない。訪日外国人のうち3割弱を占める彼らの人数は、今年に入ってからも前年同月比で10%以上の増加が続いている。

中国が不景気であるにもかかわらず、日本にやって来る中国人観光客が増えているのは、日本での買い物が「安い」からである。かつて日本は世界でも有数の物価が高い国だったが、景気低迷が長引き、その間に諸外国が目覚ましい経済成長を遂げたことから、日本の相対的な物価は安くなった。不景気になり、中国での高額なショッピングを手控えるようになったことで、余計に日本の買い物が魅力的になった面もある。

一般的に各国の購買力の差はGDP(国内総生産)と為替レートによって決まる。1985年のプラザ合意によって日本円は10年間で1ドル=240円から80円台まで3倍近くに高騰した。同じ金額で買えるモノの量が3倍になったので、当時の日本人が海外に行くと全てが安く見えた。パリやミラノが、ブランド物を大量購入する日本人観光客であふれ返っていたのもうなずける話である。

1ドル=約80円まで進んだピーク時と比較すると、今の日本円は25%ほど減価しているが、日本人の購買力は為替の変動以上に大きく減少している。その理由は、日本以外の各国が経済成長したことによって、日本の相対的な経済力が低下したからである。

過去20年間で日本の名目GDP(自国通貨ベース)はほぼ横ばいで推移してきたが、同じ期間でアメリカは2.3倍、ドイツは1.7倍、フランスも1.7倍、中国は10.4倍に経済規模を拡大させている。1人当たりのGDPについても、ほぼ横ばいの日本に対して、アメリカは1.9倍、ドイツは1.7倍、フランスは1.6倍、中国は9.3倍になった。

1人当たりのGDPはその国の平均賃金に近いので、各国の購買力は日本の1.6倍から2倍になったと判断してよいだろう。物価も同様でやはり1.3~1.5倍になっている(日本は横ばい)。

一般的に為替レートは物価の差で決まるとされているが(購買力平価)、必ずしも為替は物価とリアルタイムに連動するわけではない。日本円の為替レートが大きく変動していないのに、各国の経済規模や物価は1.5倍から2倍になっているわけだから、外国人の購買力は大幅に増加した。つまり、日本人が同じ金額の日本円で外国から買えるモノの量が減った半面、外国人が日本から買えるモノの量は増えたということになる。

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