世界が憧れた「アジアの時代」はなぜ幻に終わったのか

2019年12月17日(火)13時00分
河東哲夫

<政治も経済も世界の中心になると見られながら失速した原因と日本のサバイバル術とは>

あるイギリスの学者が、後悔気味に筆者に語った。「これまで欧州はアジアに上から目線で接してきたが、今はアジアが世界の中心。欧州・アジアの協力が大事」だと。

そんなことを今さら言っても、もう遅い。ヨーロッパを相手にしないという意味でなく、アジアも沈みつつあるからだ。

「アジアの時代」は、日米欧の投資を受けた「アジアの四小竜」、つまり韓国、台湾、香港、シンガポールの台頭で始まった。そして、冷戦が終わり、人口大国の中国が加わることで一気に勢いを増す。欧米の金融機関は相次いで中国経済の明るい見通しを書き立て、中国の株価をつり上げては儲けるビジネスを展開。中国の成長は西側の成長を支え、両者の利益はぴたりと一致した。

その結果、2000年代に入ると西側からカネが中国に流入。直接投資とその結果としての貿易黒字が年間で最大30兆円以上に上り、中国経済の高度成長のエンジンとなった。アジアは、後進性の代名詞から輝く未来の星へと一変した。

しかし中国は、まだ西側にカネや技術を依存していることを忘れて世界で我を通し始める。他者から得た強さを自力と勘違いした者が滅びる話は昔話に数多い。多くの国は中国への警戒心を高め、トランプ政権による報復関税は中国経済の柱だった対米輸出を激減させた。中国はもはや輸出の製造拠点として安全ではなくなり、中国企業ですらベトナムなどへ流出し始めている。中国の成長率は高齢化社会のツケを支払えないほどの水準に落ち、政府や地方自治体、企業の債務は増える一方だ。「一帯一路」の掛け声で発足したアジアインフラ投資銀行(AIIB)も、この頃は音沙汰を聞かない。中央アジアを横切り欧州に通ずる鉄道を数本造ると豪語していたが、新路線は1つもできていない。中国に代わるべきインド経済も勢いを失っている。

皮肉なことに、インドの誇る民主主義や私的所有権への保護の強さが、法制度の乱れや土地・不動産の買収を困難にする問題を起こし、かつての中国のような外資の大量流入を妨げているのだ。一方、ASEAN諸国の多くは「経済発展が民主主義をもたらす」という期待を裏切っている。王政の権威主義や地主-小作制に由来する根深い格差と利権闘争という構造を打ち破れていないことが、その原因だ。

かくて「アジアの時代」は幻と消える。政治の中心もアジアともてはやされてきたが、中国が沈めばアメリカもアジアから身を引くだろう。もともとアジアには、中東におけるイスラエルのような、アメリカの関与を絶対的につなぎ留める存在はいない。

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