アングル:英難病乳児の命は誰の手に、SNS論争が世界で過熱

2017年7月29日(土)14時06分

[ロンドン 27日 ロイター] - 英国の難病を患う乳児の尊厳死を巡る問題がソーシャルメディアで過熱しており、ある一家族の悲劇だったものが、世界的な論争の的へと姿を変えている。多くの寄付が集まる一方で、殺害の脅迫が寄せられ、バチカンや米ホワイトハウスからもコメントが寄せられた。

ツイッターでは先月初めから、乳児の名前であるチャーリー・ガードのハシュタグ「#CharlieGard」が約50万回使われている。英国でのグーグル検索回数は、チャーリーの名前がメイ英首相を上回り、全世界でも、米国政治を揺るがす医療保険制度改革法案を上回るほどだ。

生後11カ月のチャーリーちゃんは、筋肉の衰えが進行する遺伝性の難病に侵されており、脳の障害も認められた。ロンドンの病院は尊厳死を勧めたが、両親は拒否。米国へ渡って治療を受けさせることを希望した。

だが英国の裁判所は、この治療計画では治癒する可能性が低く、チャーリーちゃんの苦痛を長引かせるものでしかないと病院の主張を支持し、米国渡航を禁止した。欧州の人権裁判所もこの判断を支持した。

両親は、米コロンビア大学の平野道雄教授の治療法が、チャーリーちゃんに効果をもたらす可能性を示す新たな証拠があると主張し、渡航禁止の判断を覆そうとしていたが、病状が進行し、回復が見込めないことが分かり、訴えを取り下げた。

この裁判では、子どもの運命を決めるべきは親か、それとも医師かという、苦渋に満ちた倫理的なジレンマに注目が集まった。

痛ましい法廷闘争が次第に明らかになり、ローマ法王フランシスコとトランプ大統領がネット上でチャーリーちゃんの両親に対する支持を表明すると、世間の関心は大いに高まり、同裁判を巡る論争は英国にとどまらず、世界的現象となっていったことが、ウェブアクセス解析ツール、グーグル・アナリティクスは示している。

ローマ法王は6月30日、「人命を守ることは、とりわけ病を患っている場合、神が皆に委ねられた愛という使命である」とツイート。この日、チャーリーちゃんへのグローバル検索は285%上昇した。

それから3日後、トランプ大統領が「英国にいる友人や法王のように、小さなチャーリー・ガードちゃんを助けることができるなら、われわれは喜んでそうする」とツイートすると、検索は75%アップした。

英国内外で非常に多くの人が、チャーリーちゃんの運命を誰が決めるべきかという問題に関心を寄せ、インターネット上でコメントしているのを受け、ニコラス・フランシス裁判長は、事情をよく知らず投稿されたネット上のコメントを非難した。

「ソーシャルメディアの世界は、確かに非常に多くの利点もあるだろうが、本件のような裁判がネットで拡散される場合、事実に基づいていようとなかろうと、誰もが意見を表明する資格があると感じることを、落とし穴の1つとして挙げておきたい」と同裁判長は語った。

フランシス裁判長は、チャーリーちゃんが英国の公衆衛生サービスの犠牲者だと主張したり、衛生サービスには運命を決める力があるとする「ばかげた」コメントについて言及した。

<寄付と脅迫>

チャーリーちゃんの両親は、息子への支援を募るため、ユーチューブやフェイスブック、インスタグラムといったソーシャルメディアを駆使して頻繁に最新状況を更新。

母親が開設したクラウドファンディングのサイトは、130万ポンド(約1億9000万円)を超える寄付を集めた。

チャーリーちゃん家族のフェイスブックページには数多くのコメントが寄せられ、その多くは家族への支援を表明するものだった。だがその一方で、判事や病院、両親にまで怒りをぶつけるコメントも見られた。

「この小さな男の子は回復するチャンスがあったはずだ。だが、長いこと手が打たれなかったばかりに、もう手遅れになってしまった。判事は自分を恥じるべきだ。もし立場が逆で、自分自身の子どもに降りかかったことなら、結果はどうなっただろう」と、フェイスブックのあるユーザーはコメント。

また、別のユーザーは「両親が子どもの死を受け入れられず、苦痛を長引かせたのは悲しいことだ」と書いている。

「実験的な治療を受けるのを許可しないなんて、病院と英国に対する怒りを抑えることは、まったくもって無理な話だ。病院にはうんざりだ」との投稿も見られた。

世界的に有名なこの小児病院は、医師や看護師ら職員に対して殺害予告や嫌がらせが数多く届いていることを明らかにした。

チャーリーちゃんの両親は、病院への嫌がらせを非難する一方、自分たちも、法廷闘争に反対する人たちからさまざまな暴言を受けていると語った。

<米国民の関心>

英国以外で、特にこの裁判が大きな注目を集めているのは米国で、政治家や反中絶団体が飛びついている。

共和党議員2人は、米国で治療を受けられるよう手続きを迅速化するため、チャーリーちゃんに永住権を与える法案を提出した。

「生かすべき命を選択するという究極の権限を医師や当局が手にしたときにもたらされるリスクを、米英両国に思い知らせる必要がある」との声明を、ブラッド・ウェンストラップ、トレント・フランクス両議員は25日発表した。

反中絶を唱えるキリスト教防衛同盟の責任者、パトリック・マホニー師は今月、チャーリーちゃんを見舞い、両親を支援するためロンドンを訪れた。病院は「思いやりのかけらもなかった」と同師は言う。

英オックスフォードシャーを拠点にするソーシャルメディア・コンサルタントのポール・サットン氏は、この問題に関するソーシャルメディアの注目度は「爆発的」だと表現する。

「これは極めて感情的で、誰もが心を揺さぶられる問題だ」と同氏は指摘。「ソーシャルメディアがこの問題をより多くの人に、とりわけ世界中の人々に知らしめる上で大きな役割を果たしたことは間違いない。感情的な反響を集め、それがまたソーシャルメディアの活動をさらに駆り立てている」と語った。

(Cassandra Garrison記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

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