焦点:韓国新政権、経済に重点 THAAD見直し棚上げの公算

2017年5月17日(水)08時53分

[ソウル 15日 ロイター] - 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)新大統領は9年ぶりに左派政権を率いることになるが、国会においては少数与党であり、左派色の濃い政策変更は当面実行できそうにない。

文氏は、在韓米軍の「高高度防衛ミサイル(THAAD)」配備について国会に見直しを求めると公約してきた。しかし今、国会で採決を行えば、合計で過半数に達する保守派と中道派が配備を改めて承認するだろう。さらに重大な点は、こうした提案を強行すれば文氏と野党側の亀裂が一段と深まり、雇用創出など喫緊の目標達成に必要な協力が得られなくなることだ。

このため専門家によると、政権発足からの100日間は、より幅広い政治勢力から合意が得やすい経済改革の推進に重点が置かれる公算が大きい。

東亜大学のカン・ドンワン教授(政治学)は、文氏が他の政党に「ギブ・アンド・テーク」の姿勢で臨まない限り、議会が大きく混乱する公算が大きいとの見方を示した。

文氏が掲げた公約のうち、THAAD見直しのほかに北朝鮮との関係冷え込みで昨年閉鎖された開城工業団地の再開には強い批判がある。一方、雇用創出や最低賃金引き上げ、財閥改革、政府高官の汚職に関する捜査機関設立などには抵抗が少ない。

東国大学のキム・ジュンソク教授(政治学)は「文氏はまず初めに、意見が割れているTHAAD配備問題ではなく、政党間で一定の合意がある問題に取り組まなければならない」と指摘した。

<野党の協力不可欠>

北朝鮮は対話路線を打ち出している文氏の就任から間もない14日に新たな弾道ミサイルを発射し、文氏の立場の苦しさが浮き彫りになった。こうした中でTHAAD配備見直しを撤回すれば、中国の反発があったとしても米国との緊張を和らげることができる。

保守派の自由韓国党幹部の1人は「文氏が正気を失わないとすれば、THAAD(配備見直し)にこだわり続けるはずはない。もはや配備に反対はできない」と語った。

先の自由韓国党幹部は、新政権が野党と協調しようと考えるならTHAAD問題ではなく、セヌリ党候補も公約にしていた雇用創出に力を注ぐべきだと主張する。

実際、文氏の大統領としての初仕事は、5年の任期中に公的セクターで81万人の雇用を生み出すとの約束を実施する役割を担う「雇用協議会」の設置だった。また関係者の話では、政府は新規雇用のために最大10兆ウォン(89億5000万ドル)の補正予算策定に着手した。

新政権は、2020年までに現在6470ウォンの最低時給を1万ウォン(8.83ドル)に引き上げることや、年間平均労働時間を15年の2113時間からおよそ1800時間に減らす取り組みも優先課題に挙げている。いずれも実施には国会の承認が必要だ。

韓国では乱闘や強行採決を防止する目的で12年に「国会先進化法」が制定され、与野党の意見が対立する法案可決には全議員の5分の3の賛成が必要となった。文氏も、主要な改革案がこの法律の縛りを受ける点を踏まえ、政治的に成功するためには超党派的な結束が鍵になると認めている。だからこそ就任初日には、野党党首との会談に多くの時間を費やし、協力を求めた。

(Christine Kim、Cynthia Kim記者)

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