アングル:北朝鮮の新たな資本主義者育てる「秘密地下ルート」

2016年10月1日(土)09時44分

[ソウル 29日 ロイター] - 核実験を強行した北朝鮮に対し、米国をはじめとする国々が新たな制裁措置を検討するなか、一部の脱北者は、未発達な同国市場経済に投資することで、内側からの体制変化を促すことが可能だと考えている。

韓国に住む脱北者の男性は、数十人の北朝鮮市民がラーメン店や食料品店といった零細事業を立ち上げる手助けをするため、秘密の資金経路を利用して数十万ドルを送金している。

男性は昨年、北朝鮮の起業家3人に、電圧12ボルトの太陽光パネルで充電可能な中国製LED電気スタンドを3000台以上送った。2000年代初頭に中国経由で脱北したこの男性は、鍼灸針やハンドバック、毛髪染剤、ビタミン剤、女性用肌着類も、安価で購入もしくは寄付によって無料で入手し、北朝鮮に送っている。

金正恩政権の下、北朝鮮は国内で増加する「ジャンマダン」と呼ばれる半合法的な自由市場を認めてきた。そこでは個人や卸売業者が自身で製造、または中国から輸入した物品を売買している。

この市場は人々の生活水準を向上させただけでなく、旧ソビエト連邦型の計画経済に対する依存度を下げることで、国の影響力を弱めてきた。また、USBメモリーやDVDを使った、禁制品となっている海外メディアのコンテンツ取引も促進している。

「私が支援する北朝鮮の事業主らは、健全な資本主義を構築するための新しい集団となり得るだろう」と、この40代の脱北男性は語る。北朝鮮に残した妻と自身の安全のため、実名は明かさなかった。

営利目的ではないとするこの男性は、地方にある食料品店数店に2万─3万人民元(約30万3000円─45万4000円)を投資しており、さらに多額の投資を平壌で行っている。

<ジャンマダン世代>

韓国政府の委託で作成された報告書は昨年、北朝鮮の民間事業を育成することを通じて同国の改革を促すよう提案している。政府方針ではないこの案は、韓国の大企業と提携する新興企業やパートナー企業向けの小型融資を想定している。

しかし韓国の誰とであっても、接触を持つことは北朝鮮では死刑に処せられる可能性がある。これは1950─53年の朝鮮戦争が平和協定ではなく、休戦によって終わったため、両国が厳密には過去60年間、いまだ戦争状態にあるためだ。

韓国政府も国民が北朝鮮と貿易を行うことを禁じている。しかし韓国に脱北した約3万人の多くが、北朝鮮に残した親族に年推計1000万ドル(約10億円)の送金を行っていることは見逃している。

韓国統一研究院のリサーチフェロー、Hong Soon-jick氏は、脱北した投資家も、同じ送金ルートを利用できると指摘する。

「これにより市場化と情報循環を加速することができる」と同氏は語る。「しかし、政治リスクがあるため、たとえ南北関係が改善しても、こうした取引は秘密裏に行われなければならない」

こうしたアプローチは、チラシやUSBメモリーの配布、そしてラジオ放送など、北朝鮮市民の心をつかもうと韓国の反北朝鮮団体が、これまで一般的に用いてきたやり方とは一線を画するものだ。

同じように、米国務省もここ最近、北朝鮮の民主化を促進する計画を資金援助する提案を検討している。これは韓国在住、もしくは「ジャンマダン世代」の中で育った若い脱北者に対して、北朝鮮の若者に援助の手を差し伸べるよう促すことも目的としている。

<中国の銀行>

そうした若い脱北者の1人で、ソウル在住の活動家Ji Seong-ho氏は、北朝鮮市民らが地方で食べ物の屋台や作物融資ビジネスを始めるにあたり、一度に300ドルから500ドルを送金してきた。

「市場が大きくなればなるほど、体制は弱体化する。それゆえに、北朝鮮の起業家を支援する必要がある」。中国に逃れた北朝鮮難民の亡命を支援する団体を率いる34歳のJi氏はそう語る。

脱北者を対象にソウル国立大が実施した調査によると、事業を行う北朝鮮市民にとって、最大の試練は資金調達だという。当局者への賄賂と、時折行われる市場活動での取り締まりが、それに続く。

秘密の送金チャンネルを使う冒頭の脱北男性は通常、中国の銀行に金を送金する仲介人と手を組むという。中国の代理人によって金は集められ、中朝国境を越えて運ばれる。

この男性は親戚や知人を通じて、見通しを入念に調査している。

数年前、彼はカッピング(吸角)療法用機器を北朝鮮市民数人に送った。この機器は中国医療で使用されるもので、韓国で1台約20ドルで購入した。彼らは北朝鮮で3倍以上の価格で売ったという。

男性が資金援助した事業の様子を収めた写真を、現地ブローカーが中国のモバイルネットワークに接続した携帯を使って彼に送ってきた。

彼の秘密計画は2006年、中国で中古の2.5トントラックを500万ウォン(約46万円)で購入したことが始まりだった。トラックを受け取った北朝鮮市民は物品運搬で生計を立てるようになった。

2014年には、ある裕福な支援者が彼の活動を応援してくれるようになったという。彼は支援者の身元を明かさなかった。

この脱北男性は、彼が支援する北朝鮮市民に「欲深くならず、他の貧しい市民を助けて、尊敬を受けるように」と伝えたという。「これはUSBメモリーよりも効果的だろう。生活を直接支援するからだ」

(Ju-min Park記者 翻訳:高橋浩祐 編集:下郡美紀)

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